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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

BBQのおまけ。炭団づくり

BBQを高頻度でやってると、小さくなった炭の扱いに困ります。燃やそうにも網から落ちちゃうし、捨てるのはなんだかもったいない。と思ってなんとなく貯めてた様子。f:id:tiltowait9:20211010170306j:plain

電気が普及する前の日本では、こたつとかで日常的に炭が使われていて、こういうクズ炭はまとめて塊に整形して再利用してたらしい。今では見ないけど、炭団(タドン)ってやつだ。試しに作ってみましょう。

丸めて固めるにはまだでかすぎるので、まずは砕きます。

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缶の中でトンカチで叩く方式は効率が悪くて時間がかかった。まだ大きめの粒もあるけど、もう疲れた。麻袋みたいなのに詰めてから叩くと、もっと早く細かくできると思う。

小さくなったら、ここに糊を入れて丸めます。糊には昔は米をつかったそう。ちょっとめんどくさいな…。要はでんぷんのりだよね、ということで

こいつを使おうかとも思ったけど、食用じゃない成分があって加熱中に食材に付着する可能性も考えられたので、やっぱりやめた。

ぐぐったところでは片栗粉を水に溶かして加熱する方法もみつかった。デンプンがグルテン化したらなんでもいいと察して、私は天の邪鬼に小麦粉を使ってみた。

小麦粉と水を混ぜてレンジで加熱してグルテン化した様子。

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やはり小麦粉で問題ない。レンジは加熱工程を手軽にするつもりで使ったけど、これはイマイチだった。グルテン化が部分的に進行してダマになる。鍋で混ぜながら徐々に加熱したほうがダマになりにくいし、小麦粉の分量も調節しやすかったと思う。

ではこれを先程の粉砕したクズ炭に混ぜて、こねこね。

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思いの外、糊は分量が必要だった。上の茶碗一杯(水200cc)では全然足りなくて、もう一杯作って足した。合計400ccだけどそれでもまだ足りてなくて、まとまりきってない炭がパラパラと残っている。

あとはこれを乾燥させれば完成。作り方をぐぐっても「乾燥させる」はあまり強調されてないが、これは非常に重要な工程だ。私は乾燥が足りなかったので…

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カビが生えました。テラワロス

スターターで着火する過程で焼き飛ぶので、気にせず使いましたけどね。ちゃんと使えたけど、まとまりが弱くて燃焼中に割れて、あまり火は長持ちしなかった。たぶん、もっと粉々に粉砕して、もっと糊をたくさん使えば、割れにくい丈夫な炭団ができると思う。

本格的なBBQの実践 燻しについて

燻しの煙の出し方についていろいろ。

最初はスモークチップを使った。

煙を出すには不完全燃焼させることで、工夫としてまず30分ほど水につけること、ひとつかみ位をアルミホイルで包んで、ホイルに切り目をつけた状態で火にかけること、などが推奨される。実際の様子はこんな感じ。

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煙が出たのは10~15分くらいだろうか。色はついているものの、燻しの香りはやや弱いと感じたので、後にチップを変更した。

天下のWeber純正である。SOTOのスモークチップより大粒で、燃焼が続きやすいとの触れ込み。でも、結果として味は普通のチップと大差なかった。

ネットで調べるかぎり、上に書いた水につける、アルミホイルで包む、の工夫はしなくていいと言っている人もいるが、どっちにしろ本気燻製じゃなければ大差ない、って感じなのかも。

そこで、お手軽系っぽくて最初は避けてたスモークウッドも試してみた。

結果として、これを炭の上に置いたときが一番香りがついた。

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燻製の定番、手羽先と6pチーズを使用。香りもバッチリでめちゃくちゃ美味かった。発生する煙の量が多く、煙を継続する時間も30分以上と、これまでのやり方が単純に煙の量的に足りてなかったことを思い知らされた。

なお、上の写真に載せた回はBBQの一環としての香り付けではなく「燻製」を意図していたので、煙を当てる工程は、火力は極力しぼって120℃くらいで30分ほど。写真の時点で燻製完了としたが肉芯温度は50℃程度。このあと2時間ほど放置して、過剰な香りを飛ばしてまろやかにする待ちの工程を踏む。食べるときは、火は通りきってないので、改めて焼く。

 

チップでも、スモークウッドのサイズくらいたくさん使えば、煙の量と継続時間は改善するかもしれないと思い、こんな方式でもやってみた。

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内径10cmのアルミ皿に深さ3cmほどチップを敷き詰めた状態。これを炭の上に置いた。チップの使用量はこれまで参考にしていた「ひとつかみ」よりはだいぶ多い印象(5つかみくらい?)。

煙の量的にはスモークウッドのほうが多かったけど、1時間くらいは煙が出続けた。

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仕上がりがこちら。香りはスモークウッドにはやや及ばずだが、悪くない出来。
ここではチップを水につけるのもやったけど、発煙し始めるのが遅くなるだけで、チップでやる意味はないかも。煙の量を増やすには、更にチップを増やすべきだろう。大雑把には、アルミ皿の径が煙の量、深さが継続時間に関係するだろうから、次は径がもう少し大きい物を使ってみよう。

 

燻しの工程について、下処理にはまだ迷いがある。

燻煙の成分は水溶性で、水分に反応する。私の実践でも、水分の少ないナッツではほとんど燻製効果がなかったので、これは納得。

でも燻製のセオリーとしては、肉の水分は極力無くしたほうが香りが付きやすいらしく、塩で水抜きして、塩を洗い流して更に乾燥させて、それから燻煙に当てる。煙は水溶性なのに水を抜いたほうがいいのはなぜだろう?これはよくわからない。その方が香りがいいのは事実らしい。

またBBQの手順では、下ごしらえとして、酢(=水分)と、オイル(燻煙は溶けない)の混ぜものに漬けて、そのまま燻煙加熱すると説明されるが。酢は拭かなくていいのか?オイルまとわせたら香りつかないんじゃないか?燻し工程に興味がないだけなのか?

もう少し経験を重ねてみないと、なんとも言えなそうだ。

本格的なBBQの実践

前回のあらすじ。

肉は低温でじっくり調理すると美味しいよ。BBQって本場ではそういう調理だよ。BBQの本場アメリカで圧倒的シェアを誇るWeber社のグリルをたまたま持ってたから、本格的なBBQをやってみるよ。

小型の簡易版ですけどね。

基本的に、ようつべのカーメン君BBQチャンネルで聞いたことを実践してます。


www.youtube.com

アメリカ人の言うBBQについて要点をまとめますと、こんなかんじ。

・肉は塊肉を使う。日本人が焼肉に使うような薄切り肉ではない。

・肉にラブ(RUB)と呼ばれる塩とかハーブのミックスで下味をつける。

・フタをする。酸素の供給を制限し、弱火にする。

・火元に生木をくべて、ついでに燻す。

・じっくり待つ。

ガチンコだとkg単位の肉を使って10時間以上かけるそうだが、日本ではそんな肉手に入らんし、スーパーでも手に入る500g程度の肉でほどほどにやってきます。上に書いたとおりやればなんとかなりそうな感じですが、実践してみるとこれがなかなか上手く行かないものだった。こういう失敗例こそ人の役に立つと思うので、ご紹介してゆきましょう。

 

第一回。

これはBBQじゃないんですが…このフタを使えばピザも焼けると聞いて、ピザってみました。(ピザストーンはもとより所有)

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従来どおりの焼き肉BBQのつもりで火起こししてやったんですが、これは大失敗でした。フタを閉めたらすぐに火が消えて、一向に加熱できず。使った装備はこちら。

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みきゃんに罪はない。炭にも。着火剤からのうちわで扇ぐクラシックなスタイルでは、炭の一部にしか火がついておらず、フタをする方式に対して火の安定性が足りないと思い知った次第。

 

第二回。

安定した熱源のため、改革を断行。

煙突効果で楽チンな火おこし器を導入。折角なのでWeber純正をチョイスした(なんでもいいと思う)。もっとデカいタイプもあるけど、うちで使ってるスモーキージョーはWeberとしては小型タイプのグリルなので、スターターもコンパクトのタイプで十分。

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炭にはビバホームで買ったオガ炭を使用。以前に適当に買ってキャンプで使って、着火剤+うちわでは火がつかなくて、しまりんみたいに困った逸品だが、スターターがあれば大丈夫。火がつきにくいのは長持ちするということであって、長時間加熱する本格BBQには向いている。

着火剤はひとつぶで5分くらい燃え続けるこれを使えば間違いない。匂いや煙も控えめだし、コストパフォーマンスもとてもいい。Weber純正サマサマ。

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もくもく…

できあがり

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炭火の真上は温度が高すぎるので、炭火は端に寄せておいて、食材は炭を避けて配置する。

肉は手軽に手羽元を使用。燻すということで勢い、ベーコンと味付き卵と6pチーズを混載している。写真は約20分でフタを開けた状態で、火はほぼ消えていた。燻煙を閉じ込めたくて空気穴を上下とも8割がた閉めたのが原因か。

肉は加熱が足りないと病原菌が残るので、味だけでなく安全の意味で、肉の中心の温度は測ったほうがいい。料理用の温度計は色々販売されてて何でもいいけど、忠誠心の元にWeber純正を買った。

今回の肉芯温度は56℃程度だった。50~66℃の最適領域には届いていたのでOKとしたが、生感が残っててもひとつな印象だった。鶏肉はもう少し火を通した方がおいしいようだ。

燻しについては、ほんのり風味が付いてるくらいだった。玉子とか色付いてはいるけど、工夫の余地がありそうだ。燻しにはスモークチップを使用。

30分ほど水につける、アルミホイルで包んで切り目をつけておく、という小細工を加えて燃焼時間の延長を試みたものの、火が消えては仕方がない。燻しの改善については後日まとめて投稿します。

 

第三回。

前回、炭を変えて火の付け方を変えても火力が足りなかった。どうしようと火をいじっていて気づいたことには、スターターで火をつけた炭をコンロに出して積んだあと、5分ほどの間でどんどん火力が上がっているのである。見た目一緒でも火つきの強弱はあり、配置次第で強弱の分布が変わるので、スターターから出した炭が置かれた場所なりの火付き具合に収まるまで待つことが大事なようだ。

待つことを覚えたことで、ようやくフタをしても炭の火が落ちなくなった。しかし火が消えるのを恐れてグリル上下の空気の調節穴を全開にしたため、今度は温度が上がりすぎた。20分ほどで肉芯温度は80℃近くになり、やや固い仕上がりになってしまった。

火の調整は難しい。

 

味付けについてもここで説明しておく。

BBQの下ごしらえは重要だ。RUB(ラブ)と呼ばれる塩とハーブのミックスを下味として肉に刷り込んだ上で、酢とオイルに漬ける。

酢は筋繊維を膨潤させ、柔らかくする。この効果は酸性であればよく、酢のほかに、レモン、酒、ビール、コーラ、etc.で代用が可能。私はポッカレモンを使った。

オイルは保湿の他、熱伝導率を向上させる効果がある。風味づけも兼ねてオリーブオイルを使う人が多そう。

この状態で浸け置いて30分以上置いてからBBQする。もっと大きな肉なら数時間、あるいは前日夜に仕込んでおくくらいの気合が必要だ。

RUBはアメリカ人は自作するが、初心者なのでまずはと、日本バーベキュー協会が出しているRUBを購入した。

UMAMI BARBECUE RUB

UMAMI BARBECUE RUB

  • BBQ FOUNDATION
Amazon

赤いのはパプリカの色で、辛くはない。そのままだと、辛くないカラムーチョみたいな味…焼き上がると、不思議とカラムーチョ感はなく、いい感じな下味になる。

同じく日本バーベキュー協会謹製のバーベキューソースもある。こちらも併せて購入。

ざっくり、マクドナルドのナゲットについてくるソースの味。上はバーベキューソース、下はマスタードソース。つまりマクドのあれはどっちも、アメリカのBBQソースの味だったってこと。これを焼き上がり直前に肉に塗って、軽く温めてから食べるのが正式。

RUBたっぷりのスペアリブが焼き上がって、BBQソース(Smoky Sweet)をぬってる様子。

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お味の方は…ソースの味が濃すぎてRUBとか燻しとか関係なくなっちゃうような希ガス。子供には大人気でしたがね。やっぱり事前に塗って出すのではなくて、あと付けソースとして出すのがいいとオモ。

 

第四回以降。

度重なる温度の調整ミスを経て、火力のコントロールが勝負のキモなのにグリル内の温度がわからないのが悪いんだい!ということで、グリルに温度計をつけた。

フタにキリで穴を開けて、ドライバーとかでぐりぐりして穴を大きくしてネジ付けた。

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目論見通り、見た目はバッチリ馴染んだ。元からついてたくらいの馴染みぶりだ。蓋に穴あけないといけないので、だいぶ思い切りがいったけど。最近の型だと、元から温度計は付いてるみたい。キーー!

これさえあれば、温度を見ながら通気穴を調整できる。弱火でコントロールする調理なのに、丁度いい弱火なのか、火が消えきっちゃってるのかが、見た目でわかりにくいことが致命的に問題なのである。温度さえ可視化できれば、見よ。

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これは道の駅でゲットした猪のハツ。絶妙な火加減である。

炭をスターターに8〜9割くらい入れて着火して、コンロに並べた後5分ほど置いてから蓋を閉める。蓋閉めてすぐは200℃近くまで昇温するので、また5分くらい待って火が収まってから食材を乗せる。空気穴は上下半開でで150℃をキープできるイメージ。蓋を開閉すると温度が下がって戻らなくなるので、極力控える。上の猪ハツは200gくらいで、150℃で30分くらい。

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こちらは532gのやっすい豚肩ロース。150℃で始めて90分放置。120℃くらいまでジワジワ温度下がった。20分毎くらいで肉芯温度を確認して60℃で仕上がりとした。サシの入った高級な牛肉でなければ、60℃以下のレアっぽいのは美味しくないと思う。今回は火の入り具合が均一で納得の仕上がり。

炭はオガ炭でなく岩手切炭を使ったが問題なかったので、このくらいの調理時間なら炭は選ばなくてもいいっぽい。

さぁこれでもうだいたいなんでも調理できる。年末になったら、ローストビーフとかローストチキンとか、この方式で豪華にやってやろうと思う。

肉の調理に関する科学、およびBBQ

料理は科学実験だ。特に肉。肉が好きな理系人間は肉料理をすると人生が豊かになるよ。

とっても素敵でお勧めの本です。ここから肉に関する要点を抜粋しましょう。

肉の加熱とは、たんぱく質を熱変性させることである。熱変性すると、立体構造内に包み込んでいた水分が保持できなくなる。肉の主成分は「ミオシン」と「アクチン」の2つで、熱変性する温度は両者異なり、ミオシンは50℃以上、アクチンは66℃以上だ。加熱前の生肉の感触はブヨブヨと噛み切りにくいが、加熱してミオシンが変性すると、歯切れのいい食感になる。更に温度を上げてアクチンまで変性すると、水分を失いすぎて固くパサついた食感になる。よって、肉の最適な調理温度は50~66℃である。意外と低いでしょう。

もうひとつミオグロビンというたんぱく質があって、熱変性は60℃。ヘモグロビンと似た名前から察せられる通り肉の赤さの素になっていて、これが熱変性すると赤さを失い、灰色になる。だから、変色するかしないかぐらいが美味しいという経験的な基準は実に正しい。

どうですか、理系ゴコロをくすぐる話じゃないですか。

それではと実践してゆきたいところですね。しゃぶしゃぶとかの薄い肉なら簡単で、色が変わったら引き上げればいいのです。でもある程度大きさのある肉だと、これはなかなかの難題です。調理では外から熱を加えるしかなく、肉の外と中で温度勾配ができるわけで、たった16℃の狭い適正温度範囲に肉全域を収めないといけないワケですから。大きな塊肉の場合は特にそう。ローストビーフとか、叉焼とかね。この課題を確実にクリアするには、オーブンを150℃以下の低めに設定して待つのが伝統的なやり方。近年ではもっと完璧に所望の温度に仕上げるテクニックとして、湯煎する方法が登場した。60℃にキープしたお湯に漬けてずーっと待ってれば、当然肉全体が60℃になる。巷で話題の低温調理器というやつ。

でもこれ、高いよね。(最近はアイリスオーヤマとかも出してて、だいぶ安く手に入るようになってきたのを、この記事を書いてて知った…けどね!)いかにも大げさだし、今まで手を出さずにきたんだけど、これとは全然別の低温調理系のガジェットを、もう持ってたことに最近気がついた。

それがこちら。

BBQ用のグリルである。日本人はBBQというと屋外で焼き肉をするものだと思ってるけど、本場アメリカ人が言うBBQとは、塊肉を弱火でじっくり長時間加熱する調理なんだそうだ。私は見た目だけでこれを選んでいて、フツーに焼き肉に使っていたのでしたが、Youtubeで正式な使い方を知りました。カーメン君ありがとう。フタ、飾りじゃなかったんだねー


www.youtube.com

 

そんなわけでBBQグリルによる低温調理にチャレンジしました。その様子は、また記事にしていこうと思います。

「風の谷のナウシカ」漫画を読み返して

 漫画版ナウシカ、傑作。

文明が滅んだ後に人類が細々と生き延びてる設定、今の若者が見たらどう思うんだろう。突拍子もない設定だと感じやしないだろうか。連載された1982年2月~1994年3月、当初は冷戦の最中で、核戦争で文明が滅びる未来は今よりは現実味があった。私は当時子供で冷戦なんてよくわかんなかったけど、そのうち文明なんて滅んじゃうんじゃないか、っていう空気は感じてたと思う。フィクションのネタにもよくなってた。例えば北斗の拳も「199X年、地球は核の炎に包まれた~」とかそんな設定だ。
参考まで、ソ連崩壊は1991年。1980年代を生きた人は、戦争で文明が滅ぶ想像をよくしていた。

トルメキアと土鬼の2大国による戦争も、明らかに米ソを模している。腐海を武器として使い、不毛の地を自ら拡大する、これは核の比喩。なおチェルノブイリ原発事故は1986年だ。

最近は文明が滅ぶなんてあまりリアリティのある設定ではなくなったかもしれない。でもそれってすごいことだ。紛争はまだまだたくさんあるし、相変わらず人類は愚かだけど、争いの少ない世界に少しづつ向かっている。(これは異論がある人もいるかも知れない…でも実際、暴力は減っているそうだ。スティーブン・ピンカー著「暴力の人類史」を参照)

終わりのない人類の愚行、作中で絶望感を持って語られるが、人類もなかなか頑張ってるじゃないか、もっと人類に期待してもいいんじゃないか。時間を空けて読み直してみて、そう思った。

腐海放射性物質の他に公害の比喩でもあるが、これもそう。1970年台までは日本も公害がひどくて、今の中国とどっこいだった。でも今では企業もかなり対策してきたし、日本で公害に悩むことなんて少なくなった。瀬戸内海なんかはきれいになりすぎて、栄養価が足りなくて海苔が不作になったりしてるそうだ。公害に苦しんだ世代からしたら、ちょっと笑っちゃうような悩みじゃないか。少しづつでも世界は良くなってる。絶望なんてしなくても大丈夫だ。

 

 

宮崎駿共産主義だったそうだ。というかあのくらいの世代の教養ある爺さん達は、だいたい共産主義に何らか理想を見てたようだ。資本主義が唾棄すべき浅ましさを持っているのはわかるが、現実問題として共産主義では経済を成立させられないことが、今では証明されてしまった。連載途中にソ連崩壊を見て爺様たちは何を思っただろう。

「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する。」大昔の言葉だが、スターリン毛沢東も見事にこの通りになってしまった。宮崎駿は、ナウシカですら例外ではないと考えたようだ。皇兄ナムリスに言わせている。

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後味の悪いセリフだけど、この後もこれを否定する展開はない。そして散々引っ掻き回した挙げ句のナムリスの放言。

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ヒロインにこんな言葉を投げる作者があるか。純粋な善意のヒロインではこの世界を救えないと、これは相当に悩んでる。最終的に、ナウシカはちょっと衝撃的なレベルの「破壊」を選択するわけだが。

 

 

おまけ。

メーヴェに垂直翼がなくて不安定そう問題。実は1巻冒頭では羽の中ほどにあった。

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でも1巻53pではなんかちっさくなってて…

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1巻の最後にはなくなっている。

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飛行機オタクの拘りより、デザインを優先したのかな?

「機動警察パトレイバー 旧OVA 二課の一番長い日」鑑賞メモ

機動警察パトレイバーの初期OVA(アーリーデイズ)の5話,6話で語られる「二課の一番長い日」は、陸自の一部がクーデターを企てる内容で、後日制作される傑作映画「機動警察パトレイバー2 The Movie(以降パト2)」の習作のようなもの。正直、アーリーデイズはこの2話につきる。パト2との関連を見つつメモを残す。 

 

 

tiltowait9.hatenablog.com

 

・OP、前半は野明のキャラデザインがちょっとちがう。髪黒いし。途中で本編通りの茶色になるが、表情の動かし方が本編とテイスト違ってやっぱり違和感。たぶん、キャラクター像が固まる前に作って、低予算なもんで修正できなかったんだろうナ。

 

~~~前編~~~

 

・予定表に第二小隊休暇の日程、日付は1日~3日。月は見えないが、後編冒頭で2月って教えてくれる。

・遊馬「 なんでレイバーにFCSが必要なんだ?」FCSはFire Control System、射撃統制システムのこと。

・行き場のない遊馬、懐かしき公衆電話。ケータイの普及は予見できなかったね。

・野明実家は「泉酒屋」

・野明に電話する遊馬。シーン終わりの引き絵の上を戦車が走っている。

 ・レイバー搭載車両が検問を突破。陸自レイバー操縦士のヘッドギアに映るコクピットの明かりは、パト2でも使われた表現。元ネタはSir リドスコのエイリアン冒頭。

2秒位の銃撃シーンは最高の迫力。この低予算アニメの余力を相当持っていっただろう。ジャラジャラと流れ落ちる薬莢表現がニクイ。

・立ち食いそば屋にて。甲斐「かけ、熱いところを貰おうか」「おっと済まないね、ネギ抜きで頼むよ」そして七味をたっぷり。店主は納得の表情である。立ち食いそばは押井の趣味。遊馬がコロッケ、たまご、いなりをゴテゴテと追加注文したのに対比して、甲斐はかけのネギ抜き…それって出汁とうどんだけってこと。装飾を徹底的に捨てるところにカッコ良さを感じるのは分からなくもないような。いや立ち食いのプロって何だよ。

後藤隊長と太田がドライブ。アニメなのに、しゃべる方に合わせてピントが動く。押井得意の表現。「雪が降りそうですからね」と予告。

シーンの終わり際、怪しげな軍用車とすれ違う。

・野明実家で遊馬が偉そうなことを言う。現代的には疑問な態度だが、好ましい関係性として描かれている。亭主関白ぶる旦那と、従ってあげる嫁。

なおパト1では、「なーにえばってんだよ」と嫌がられる。

・決起の日は雪。パト2も同じ。226事件が雪の日とされていることとの連想か。

永田町駅を戦車が通過。パト2では新橋駅で第二小隊が集結して、このイメージを引き継ぐ。

そして決起するクーデター軍。軍用レイバーの立つ絵面はパト2の自衛隊配備シーンで流用。ヘリのカットはそのままパト2の決起に流用。

・戦車に制圧される特車二課。パトレイバーは戦力であり制圧の対象となる。パト2でも制圧されたが、問答無用のヘリ銃撃でリアリティUP。

・旧式レイバーでクーデーター軍に立ち塞がる第一小隊。勝負にならない戦力なのは明らかだが、クーデター側も交戦は控えている。

ここでしのぶさんの演説「指揮官に告ぐ。無用の戦闘を望まぬなら、速やかに包囲を解いてこの場から撤退せよ。戦闘になれば、我々も警視庁の名誉にかけて死力を尽くして戦う。この場で血が流れれば、全国30万の警察官は最後の一人まで諸君らを敵に回して戦うだろう。繰り返す。速やかに包囲を解いてこの場から撤退せよ。」前時代的だ。全警察官にそこまでの覚悟があるかな?

(追走するパトカーを銃撃した時点で、警察官の血は流れてると思うなぁ)

・野明、遊馬、太田、ひろみ、進士。各々、ニュースを見て東京へ。太田はともかく、だれも迷わない。現代の感覚では警察官は職業のひとつにすぎない。果たして、自分が警察官だからといってこの場面で戦うことを迷わず判断できるだろうか。

パト2では、遊馬は悩む。後藤も「よく来てくれたな」と言う。職に殉じて戦うのは当然ではない。それが現代のリアルだろうと思う。

・「東京で俺たちを待っていたのは、戦争だった」押井が描きたいのは、現代の東京で起こる戦争だ。 

 

~~~後編~~~

 

・後藤も立ち食い。果たしてその注文は、かけネギ抜きか、はたまたトッピングしまくりか。前者なら後藤は甲斐の同士、後者なら違う。たぶん押井はそのくらいの重みを立ち食いに見ている。そして、後藤の注文の答えは明かされない。

たぶん、かけネギ抜きだったんだろうと思う。

・車に電話がついている。自動車電話は80年代に実在した。携帯が発達して廃れた技術。

「はい、こちら上海亭」は二課内の合言葉なのだろう。

・中華屋の出前に化けてダサいカッコした香貫花、小芝居して騙すヤリ手ぶり(井上瑶さんの演技をしているキャラの演技、実にいい)。なお屋号は蓬莱軒、上海亭ではない。

・しのぶさん啖呵。「黙ってこの場を明け渡し、尻尾を巻いて逃げ出せと?」「お聞かせ願いたい。死守命令ならともかく交戦を禁じたうえ撤退とは、いかなる理由あってのことか」「承服できません。包囲を含む上空にも報道陣が詰めかけています。全国民注視の中でどのような情勢があるにせよ、ただの一発も反撃することなく本庁舎を明け渡すようなことがあれば、それは警察が自らの手で敗北を認めたことになります。それこそ彼らの思うつぼではありませんか。国を守るべき者が国を乗っ取ろうとするに対し、これを打倒するは我々をおいて他になく、今こそ全国民の期待は我々の双肩に掛かっているはずです。確たる証拠すらなく、否、確たる証拠があったにせよ、彼らの恫喝を前に戦わずして膝を屈するなど言語道断。たとえ守備隊全員がこの場で果てようと一歩も引くわけには参りません。」

上官の交戦禁止の指示自体は政治的判断として理解可能であり、徹底抗戦を論じるしのぶさんはカッコいいがやはり前時代的である。戦時中の無茶な軍人か。(榊原良子さんの演技が実に凛々しい)

パト2でも勝手に第一小隊を出動させる、上層部の腑抜けた態度に業を煮やして啖呵を切るなどやらかすしのぶさんだが、背景が修正されていて、正義がしのぶさんにあるのが明確にされる。やりたいことが同じでも、シナリオを丁寧に仕上げないと没入感を削ぐ例。

・汚らしい後藤。風呂に入ってないな。既に警察機構とは別次元で活動している。

・香貫花隊の戦いは、太田が敵でなく高速道路に穴開けて落っこちる自爆で早々に終了。訓練用レイバーを強奪とか口止め料とか過程に色々してるだけに、この動きがストーリー上なんの役にも立ってないのは惜しい。

なおパト2では、太田は都内に進撃やらかそうとして取り押さえられたと、描写もなく一蹴される。香貫花がやったことをやろうとしたわけだが。佐久間教官曰く「今日日のわけぇ奴らが、あんな熱血バカのアジに乗せられると思うか?」。製作者側も、このくだりの修正を試みているよう。

・後藤と甲斐の会話。
甲斐「何を考えてるのか知らんが、これみよがしに見せられれば揺動だと子供でもわかる」
後藤「どうかな?それならお前が見せびらかしているそのミサイルはどうなんだ。最後の切り札は身近に置いておきたいのが人情だが、それでは戦略とは言えん。しかし相手によってはそうと見せて裏をかくて手もある」
甲斐「その手はお前の十八番だったんじゃなかったのか」
後藤「忘れたのか、それを俺が誰に習ったのか」

わかりにくいが、このやりとりで後藤は甲斐側の船のランチャーが本物だと汲み取っている。ついでに、後藤はアルフォンスの他に本命があることをごまかしている。

・松井刑事「今からでも、あんたを逮捕すべきなのかもしれんなあ。後藤さん、あんたもしかしたら、今でもあの甲斐って男の同志なんじゃないのか」。後藤は答えない。同志であることを否定できない。

主犯の同志であること、昔なじみであること、止めること。パト2では荒川、しのぶさん、後藤に要素が振り分けられる。

・将校の制止を振り切って、本当に発射ボタンを押す甲斐。ひろみの空挺レイバーが早かったが、将校の制止がなければヤバかった。(撃つのに成功して切り札を使っちゃったら、それはそれで交渉の種がなくなるから敗北決定なんだけど)

・甲斐「事は終わった。二人から初めてここまで準備するのに20年。生きてりゃもう一回くらいやれるさ」言いつつも敗北感のない表情。懲りないし諦めない。反乱しつづけることが人生なのだろう。そもそも、彼が何を目的にこの反乱を企てたのかが一切描かれないが、たぶん押井世代は革命自体に甘美なものを見ていて、卑近な理由など語りたくないのだ。これは世代の違いだろうなぁ。パト2ではさすがに理由も語られるが、虐げられたとか貧しいとかの理解可能な話ではなく、観念的な、共感できないロジックだった。押井にとっての革命は、そういうものなのだろう。

それと諦め早すぎ。アクションシーンを作れない予算的制限もわかるが、ここまでの演出が素晴らしかっただけに、この尻切れトンボ感は残念。それで、時間的に予算的にできなかったことを全部やったリベンジマッチがパト2なのであろうなぁ。

新海監督のこと

天気の子みてきた。新海監督は昔から見てて、結構好きなのだ。これまで思ってたことを作品ごと時系列でまとめつつ今回の感想など。

 

ほしのこえ(短編) 

ほしのこえ

ほしのこえ

 

  荒削りながら、この人のテーマは既に出し尽くしている。日常描写、会えない二人、遠回りなメールのやり取り、モノローグ、などなど。SF描写はやや陳腐。

 

雲のむこう、約束の場所

雲のむこう、約束の場所

雲のむこう、約束の場所

 

 美しい景色、少女との夏。作品に掛けられる仕事量が相当に増えたのでしょう、背景の美しさはこの時点で見事です。強力な武器を持った作家なのはこの時点で確定ですが、ストーリーは凡庸。SFすきなんだろうけど、やっぱりSFでいいもの出せる人じゃないんじゃ…って思ってた。

 

秒速5センチメートル(連作短編) 

秒速5センチメートル

秒速5センチメートル

 

 そしたらSFを捨てた。作家性の焦点が定まり、奔出するフェチズム。美しい景色と少女、すれ違い。非リア充男子を(昔そうだったおっさんも)もきゅもきゅさせまくる、鬼才が誕生してしまった。このときは、この人はややオタク向けの監督として生きていくんだと思った。

 

星を追う子ども 

星を追う子ども

星を追う子ども

 

 ここに来てびっくりするくらいの凡作。ジブリっぽい要素を継ぎ接ぎしただけで個性がない。要は、普遍性のある長編映画というものに意識的に挑戦していて、その結果として自身のフェチズムを封印したんだろう。今にして思えば、オタク向け監督から脱却する、然るべき通過儀礼だったようにも見える。

 

言の葉の庭(短編) 

言の葉の庭

言の葉の庭

 

 前作の反省からか、フェチズムの先鋭化に戻った。もとより得意分野だった映像の美しさ、細部の表現力が、もう桁違いにパワーアップしてる。傑作である。「秒速~」も連作短編だったし、長編の話作るの下手そうだから、このまま短編作家してくれるのがいいかな~と思ってた。

 

⑥君の名は 

君の名は。

君の名は。

 

 そしてこの超絶ヒット作。ああなんてことだこの人は、フェチズムはそのままに、長編を面白く作ることにも成功してしまった。少女はかわいく、おねーさんは美しく、世界はきらびやかに。前作で獲得した表現力は走り、フェティッシュでもありながら、大きなどんでん返しを用意したストーリーとも有機的に結びついている!大化けもいいとこ、何が起こった??異様な売れ行きもその素晴らしい内容に見合ったことだが、ヒットしすぎたことが次回作以降の作家性を殺してしまうのでは…と心配した。

 

⑦天気の子

 で、ですよ。超絶ヒット作の後、映画監督としてのありようが逸れてしまうんじゃないかと恐れたが、むしろ獲得した力を奔放に作ることに振り向けたようだ。作品の動機だったであろういくつかのシーンは、本当に印象的だった。雨と晴れ間の描写、東京の水害、ラブホの一夜、線路を走るところ、などなど。人の心に刺さるシーンをイメージすることができ、表現することができる。表現者としてのこの人は、もう完璧に信用していい。この先もこの人は自分のフェチを表現し続けるだろうし、それは俺には刺さる。

  落ち着いて振り返ってみれば、ストーリーの全体像としてはあまり上手に作ったものではなかった。じつは物語の骨組みは「君の名は」と同じ部分が多い(二人の関係が恋愛になる瞬間に会えなくなる→なんか頑張って会う、とかとか)。大人の事情に縛られたのか、あるいは、相変わらず長編ストーリーを作るのが苦手で新しいことできなかったのか。前回とだいぶ違うこと盛り込んだようでいて、実は今もストーリー作りがボトルネックな感はある。

 街のルールからはみ出した少年少女が、それを矯正しようとする大人たちに囲まれて、ただ今のままでありたいのにと願う。彼らの切迫感は本当に感情移入できた。泣きそうなくらいだったんだけど、最後にあっさりと語られるように、この世の終わりのように思えた別離もせいぜい2~3年のことで、待てば解決する問題だったりする。本当にそこは、すごくあっさりと語られてしまうんだけど。そういう、若いときの「今がすべて」な感覚を今も鋭敏に持っていて、それを表現の根幹としつつも、客観視できる大人の視線もまた備えているのが、この人のすごいところ。

 まぁその一時的な別離が、二人の関係性を決定的に変えてしまうというのもある話で、「秒速~」でまさにそれをやったわけで、待てば済むとは言い切れないのもよくご承知のところ。「君の名は」も「天気の子」も、その心配がありながらも変わらなかったのが、ハッピーエンドたる所以なのだ。

 ところで、平泉成とダンチの刑事コンビ、この映画の用意したリアリティのレベルから浮いていてやや気持ち悪い。もう少しコメディリリーフ的に使う計画だったのかな?うまくいってないとオモ。

 それと、ご都合主義的なところが散見されました。特に終盤の大事なところで。それでいい、と思っちゃってると惜しい。そういうのって、少しづつだけど没入感を削ぐんだよ。諦めないでほしい。

 ちなみに私はカップヌードルの時間など数えもしない。最初にお湯を入れて、箸や机の準備をして、終わったら食う。少々ベビースター状態だったところで、それもまたうまいのだ。

 結論としては、これからも応援しますがんばれ新海さん、ということです。