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読書録22 大栗先生の超弦理論入門

わたし物理学科卒だけど物理学にも色々あって、専攻でもなければ超弦理論は触れずに終わる。興味で概略を知りたくて読んでみた。

ブルーバックスに珍しく縦書きのタイトルには、数式を極力使わずに説明するという意図が込められているそうだが、その意気にそぐわぬ素晴らしい内容だった。わかんないなりにわかった気にさせるというか。研究者たちの熱意と発展のストーリーを追うだけでも楽しく読める。学生が数式でじっくり勉強にしても、こういう本で道筋を見てからのほうが絶対理解しやすい。以下、要点まとめと言うか自分のための備忘録。

素粒子を大きさのない点と捉えると自身の電磁場の影響で質量無限大になる。有限の大きさをもたせる手段として、素粒子を弦と考えて、弦の振動モードが素粒子の種類だと理解するとよさそう。弦理論。

・もともと素粒子論(電磁気力、強い力、弱い力)と相対性理論(重力)を同時に扱える理論がないという課題があったが、弦理論だと端のある弦で光子、端のない環状の弦で重力を表現できるので、統一理論の候補に。

・ここまではボソンだけの話。フェルミオンを表現するには、二乗すると0になるグラスマン数を座標に導入した超空間を考える。それが超弦理論

・超空間での回転対称を考えると、フェルミオンとボソンの間に超対称性が想定される。まだ見つかってないスーパーパートナー。

・光子を質量0にできるのは、弦理論では25次元、超弦理論では9次元のときだけ。この証明には 1+2+3+4+…=-1/12 というきしょいオイラーの公式を使う。

・位相をずらしてもいいゲージ対称性の、位相を4次元にすると電磁気力・強い力・弱い力を全部表現できる。

・それでもアノマリーがあったが、ゲージを32次元の回転対称性にすれば相殺される。

・6次元のカラビ-ヤウ空間を使ってコンパクト化すると9次元の超弦理論を3次元空間に落とし込める。

超弦理論には5つ形式があったが、素粒子の基本単位を1次元の弦から2次元の膜に拡張することで、相互に双対性があると説明できる(双対性のウェブ)。5つの超弦理論の背後に更なる統一理論(M理論)があると期待。

素粒子はもはや1次元の弦である必要もなく、p次元のp-ブレーンで表現できる。

・膜(2-ブレーン)が閉じた弦(1-ブレーン)を切り開くと、開いた弦の端点が膜に張り付く。ブラックホール表面の分子をこの形式で表現できる。

・マルダセナのホログラフィー理論で、ブラックホール表面が説明できれば内部まで説明したことになる。上記と合わせればブラックホールを記述できる。

・次元があまりに容易に増減するので、温度が分子運動の結果であったように、次元もまたもっと根源的なものの帰結であるのやもしれぬ。

 

素粒子物理の読み物では、もっと背景知識から最先端まで広い範囲を扱うランドール博士のもいい。

tiltowait9.hatenablog.com

 

でもこっちはこれは扱う範囲が広すぎで、超弦理論なんか1章だけだし、概略すぎて食い足りなかった。まずランドール博士を読んでから大栗博士を読んで、それからガチの教科書に取り組むのを、物理学部の学生に推奨したい。