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「機動警察パトレイバー 旧OVA 二課の一番長い日」鑑賞メモ

機動警察パトレイバーの初期OVA(アーリーデイズ)の5話,6話で語られる「二課の一番長い日」は、陸自の一部がクーデターを企てる内容で、後日制作される傑作映画「機動警察パトレイバー2 The Movie(以降パト2)」の習作のようなもの。正直、アーリーデイズはこの2話につきる。パト2との関連を見つつメモを残す。 

 

 

tiltowait9.hatenablog.com

 

・OP、前半は野明のキャラデザインがちょっとちがう。髪黒いし。途中で本編通りの茶色になるが、表情の動かし方が本編とテイスト違ってやっぱり違和感。たぶん、キャラクター像が固まる前に作って、低予算なもんで修正できなかったんだろうナ。

 

~~~前編~~~

 

・予定表に第二小隊休暇の日程、日付は1日~3日。月は見えないが、後編冒頭で2月って教えてくれる。

・遊馬「 なんでレイバーにFCSが必要なんだ?」FCSはFire Control System、射撃統制システムのこと。

・行き場のない遊馬、懐かしき公衆電話。ケータイの普及は予見できなかったね。

・野明実家は「泉酒屋」

・野明に電話する遊馬。シーン終わりの引き絵の上を戦車が走っている。

 ・レイバー搭載車両が検問を突破。陸自レイバー操縦士のヘッドギアに映るコクピットの明かりは、パト2でも使われた表現。元ネタはSir リドスコのエイリアン冒頭。

2秒位の銃撃シーンは最高の迫力。この低予算アニメの余力を相当持っていっただろう。ジャラジャラと流れ落ちる薬莢表現がニクイ。

・立ち食いそば屋にて。甲斐「かけ、熱いところを貰おうか」「おっと済まないね、ネギ抜きで頼むよ」そして七味をたっぷり。店主は納得の表情である。立ち食いそばは押井の趣味。遊馬がコロッケ、たまご、いなりをゴテゴテと追加注文したのに対比して、甲斐はかけのネギ抜き…それって出汁とうどんだけってこと。装飾を徹底的に捨てるところにカッコ良さを感じるのは分からなくもないような。いや立ち食いのプロって何だよ。

後藤隊長と太田がドライブ。アニメなのに、しゃべる方に合わせてピントが動く。押井得意の表現。「雪が降りそうですからね」と予告。

シーンの終わり際、怪しげな軍用車とすれ違う。

・野明実家で遊馬が偉そうなことを言う。現代的には疑問な態度だが、好ましい関係性として描かれている。亭主関白ぶる旦那と、従ってあげる嫁。

なおパト1では、「なーにえばってんだよ」と嫌がられる。

・決起の日は雪。パト2も同じ。226事件が雪の日とされていることとの連想か。

永田町駅を戦車が通過。パト2では新橋駅で第二小隊が集結して、このイメージを引き継ぐ。

そして決起するクーデター軍。軍用レイバーの立つ絵面はパト2の自衛隊配備シーンで流用。ヘリのカットはそのままパト2の決起に流用。

・戦車に制圧される特車二課。パトレイバーは戦力であり制圧の対象となる。パト2でも制圧されたが、問答無用のヘリ銃撃でリアリティUP。

・旧式レイバーでクーデーター軍に立ち塞がる第一小隊。勝負にならない戦力なのは明らかだが、クーデター側も交戦は控えている。

ここでしのぶさんの演説「指揮官に告ぐ。無用の戦闘を望まぬなら、速やかに包囲を解いてこの場から撤退せよ。戦闘になれば、我々も警視庁の名誉にかけて死力を尽くして戦う。この場で血が流れれば、全国30万の警察官は最後の一人まで諸君らを敵に回して戦うだろう。繰り返す。速やかに包囲を解いてこの場から撤退せよ。」前時代的だ。全警察官にそこまでの覚悟があるかな?

(追走するパトカーを銃撃した時点で、警察官の血は流れてると思うなぁ)

・野明、遊馬、太田、ひろみ、進士。各々、ニュースを見て東京へ。太田はともかく、だれも迷わない。現代の感覚では警察官は職業のひとつにすぎない。果たして、自分が警察官だからといってこの場面で戦うことを迷わず判断できるだろうか。

パト2では、遊馬は悩む。後藤も「よく来てくれたな」と言う。職に殉じて戦うのは当然ではない。それが現代のリアルだろうと思う。

・「東京で俺たちを待っていたのは、戦争だった」押井が描きたいのは、現代の東京で起こる戦争だ。 

 

~~~後編~~~

 

・後藤も立ち食い。果たしてその注文は、かけネギ抜きか、はたまたトッピングしまくりか。前者なら後藤は甲斐の同士、後者なら違う。たぶん押井はそのくらいの重みを立ち食いに見ている。そして、後藤の注文の答えは明かされない。

たぶん、かけネギ抜きだったんだろうと思う。

・車に電話がついている。自動車電話は80年代に実在した。携帯が発達して廃れた技術。

「はい、こちら上海亭」は二課内の合言葉なのだろう。

・中華屋の出前に化けてダサいカッコした香貫花、小芝居して騙すヤリ手ぶり(井上瑶さんの演技をしているキャラの演技、実にいい)。なお屋号は蓬莱軒、上海亭ではない。

・しのぶさん啖呵。「黙ってこの場を明け渡し、尻尾を巻いて逃げ出せと?」「お聞かせ願いたい。死守命令ならともかく交戦を禁じたうえ撤退とは、いかなる理由あってのことか」「承服できません。包囲を含む上空にも報道陣が詰めかけています。全国民注視の中でどのような情勢があるにせよ、ただの一発も反撃することなく本庁舎を明け渡すようなことがあれば、それは警察が自らの手で敗北を認めたことになります。それこそ彼らの思うつぼではありませんか。国を守るべき者が国を乗っ取ろうとするに対し、これを打倒するは我々をおいて他になく、今こそ全国民の期待は我々の双肩に掛かっているはずです。確たる証拠すらなく、否、確たる証拠があったにせよ、彼らの恫喝を前に戦わずして膝を屈するなど言語道断。たとえ守備隊全員がこの場で果てようと一歩も引くわけには参りません。」

上官の交戦禁止の指示自体は政治的判断として理解可能であり、徹底抗戦を論じるしのぶさんはカッコいいがやはり前時代的である。戦時中の無茶な軍人か。(榊原良子さんの演技が実に凛々しい)

パト2でも勝手に第一小隊を出動させる、上層部の腑抜けた態度に業を煮やして啖呵を切るなどやらかすしのぶさんだが、背景が修正されていて、正義がしのぶさんにあるのが明確にされる。やりたいことが同じでも、シナリオを丁寧に仕上げないと没入感を削ぐ例。

・汚らしい後藤。風呂に入ってないな。既に警察機構とは別次元で活動している。

・香貫花隊の戦いは、太田が敵でなく高速道路に穴開けて落っこちる自爆で早々に終了。訓練用レイバーを強奪とか口止め料とか過程に色々してるだけに、この動きがストーリー上なんの役にも立ってないのは惜しい。

なおパト2では、太田は都内に進撃やらかそうとして取り押さえられたと、描写もなく一蹴される。香貫花がやったことをやろうとしたわけだが。佐久間教官曰く「今日日のわけぇ奴らが、あんな熱血バカのアジに乗せられると思うか?」。製作者側も、このくだりの修正を試みているよう。

・後藤と甲斐の会話。
甲斐「何を考えてるのか知らんが、これみよがしに見せられれば揺動だと子供でもわかる」
後藤「どうかな?それならお前が見せびらかしているそのミサイルはどうなんだ。最後の切り札は身近に置いておきたいのが人情だが、それでは戦略とは言えん。しかし相手によってはそうと見せて裏をかくて手もある」
甲斐「その手はお前の十八番だったんじゃなかったのか」
後藤「忘れたのか、それを俺が誰に習ったのか」

わかりにくいが、このやりとりで後藤は甲斐側の船のランチャーが本物だと汲み取っている。ついでに、後藤はアルフォンスの他に本命があることをごまかしている。

・松井刑事「今からでも、あんたを逮捕すべきなのかもしれんなあ。後藤さん、あんたもしかしたら、今でもあの甲斐って男の同志なんじゃないのか」。後藤は答えない。同志であることを否定できない。

主犯の同志であること、昔なじみであること、止めること。パト2では荒川、しのぶさん、後藤に要素が振り分けられる。

・将校の制止を振り切って、本当に発射ボタンを押す甲斐。ひろみの空挺レイバーが早かったが、将校の制止がなければヤバかった。(撃つのに成功して切り札を使っちゃったら、それはそれで交渉の種がなくなるから敗北決定なんだけど)

・甲斐「事は終わった。二人から初めてここまで準備するのに20年。生きてりゃもう一回くらいやれるさ」言いつつも敗北感のない表情。懲りないし諦めない。反乱しつづけることが人生なのだろう。そもそも、彼が何を目的にこの反乱を企てたのかが一切描かれないが、たぶん押井世代は革命自体に甘美なものを見ていて、卑近な理由など語りたくないのだ。これは世代の違いだろうなぁ。パト2ではさすがに理由も語られるが、虐げられたとか貧しいとかの理解可能な話ではなく、観念的な、共感できないロジックだった。押井にとっての革命は、そういうものなのだろう。

それと諦め早すぎ。アクションシーンを作れない予算的制限もわかるが、ここまでの演出が素晴らしかっただけに、この尻切れトンボ感は残念。それで、時間的に予算的にできなかったことを全部やったリベンジマッチがパト2なのであろうなぁ。