折り紙2 : トップおりがみ
先の記事でご紹介した「ビバ!折り紙」は、前川淳氏の理論と作品を笠原邦彦氏が本にまとめたもの。
これにはいくつか続刊があって、そこでは前川氏だけでなくいろいろな作家の作品が、編者の笠原氏の感性によって紹介されている。まぁ、全部廃刊なのだが。今回はシリーズ2作目「トップおりがみ」の話。 これも思い出の一冊。
前著で複雑化の道を開いたのだからその道を邁進するかとおもいきやさにあらず、ユニット折り紙や、多面体作図、表裏一体折りなどなど、トリッキーなアイデアの紹介に紙面が多く割かれている。ユニット折り紙など、今では布施知子さんあたりがかなり複雑なことをやっておられるが、その可能性を提示したのはこの本あたりが端緒のよう。
ユニット折り紙の単純な例、そのべユニット6枚(3色)からなる立方体。
同じくそのべユニット6枚の立方体だけど、紙の裏を見せることで2色にしている。
そのべユニット12枚からなるくす玉。ネット徘徊で見つけた、この本には載ってなかったオシャレそのべユニットを使用。
こんなパターンもある。さっきの12枚のくす玉を、凸を凹みに転じて組んだ場合。骨組みみたいになって随分と印象が変わり、これまたおもしろい。
少々幾何学な話になるが、このユニットくす玉の巨大化には際限がない。ユニット3枚が絡まる凸形状の底面は正三角形をなすので、ここに注目すれば、まず正三角形の面からなる多面体は構成できる。さらにこの三角形を立体的に組み合わせる2次ユニットを考えれば、2次ユニットの底面は正方形・正五角形・正六角形にすることもできる。こうなれば考えうる多面体はだいたい構成できることになるのであった。上の写真にあるのは正三角形の凸が8点で、正四面体と理解できる。
(この視点では、先に登場した立方体は正三角形4面に囲まれた正四面体である。ややこいね)
そして、軍拡競争よろしく肥大化するくす玉。上段右から順に、
そのべユニット30枚からなる正20面体。(凸1つからなる正三角形が20面)
そのべユニット36枚からなる正6面体。(凸4つからなる正方形が6面)
そのべユニット90枚からなる正12面体。(凸5つからなる正五角形が12面)
そのべユニットを量産する工程は一種の精神修養だ。単純な工程を繰り返し折り続ける作業に妙な没入感があり、30枚を作り始めたときにはこれで限界と思っていたのに、出来上がってしまえば上を目指したくなる不思議。本の中では理論値として900枚からなる多面体も紹介されているが、これはさすがにどうかしてる。美しさとしては、右上の「30枚正20面体」がピークじゃなかろーか。
ユニット折り紙はこのへんで置いといて…
それ以外にも志向を凝らした作品が並ぶ。例えば川崎敏和氏によるバラ、その道では「カワサキローズ」と有名なやつだ。複雑系折り紙とは頭の使い方が違う、立体的に曲線的に仕上げる折り紙。美しい。
こんなのも。同じく川崎敏和氏の巻き貝。先っぽをネジネジと折り上げる工程が楽しい。川崎博士のアイデアは一味違う。
もちろん複雑系も紹介されている。例えば、ジョン・モントロール氏の作による「オサムシ」。昆虫戦争のはしりの時代だろうか。脚6本に加え触覚2本と翅2枚が折り出された、典型的な昆虫折り紙だ。
オサムシの折図の後には、こんなページがあった。
「応用は楽でしょう。」じゃねぇ。簡単に言いつつクワガタに折り変えた作例が写真だけで紹介されてて、つい同じものを折りたくなったが、実は背中のヒダを沈め折りするなどなどしていて、全然簡単じゃなかった。しかも触覚(眼?)はまだ再現できてなかったり…
本書のオオトリ、ステゴサウルス。これもジョン・モントロール氏の作。背中のヒダがたくさん、左右ズレて配置されるよう折り出す工程は実に技巧的で、よくこんなこと思いつくなぁと感心する。短足で可愛らしいし、この人の作品は複雑ながらも、古典的な折り紙のデフォルメ感を残しているのが好き。