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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

読書録21 神道と古代日本の勉強本いろいろ

 古代日本は文字がなかったせいで謎だらけ。断片的な中国の記録くらいしか確実な情報がない中、古事記日本書紀などなど神話の中にもいくばくの現実が反映されているだろうと研究されているものの、そんな曖昧な論拠では推論を事実と断定するのは難しい。まぁ、わからないからこそ想像するのが面白いというものでして、古代に思いを馳せるのはロマンなのだ。
旅行で宇佐神宮に行った余波で気分が盛り上がって、関連図書を一気読みしてみたので記録する。願わくは、一つだけ読んでそれが真相に違いないなどと感化されませんように・・・

 

逆説の日本史〈1〉古代黎明編―封印された「倭」の謎 (小学館文庫)

 

●論点ピックアップ

・邪馬台は中国語ならヤマトと読める。大和朝廷の源流に違いない!

卑弥呼は日巫女。皆既日食で民衆の信用を失って殺され、別の巫女トヨ(台与)にすげ替えられた。天の岩戸神話はこの話。

・国譲りは大和朝廷の征服を、「話し合いで譲ってもらった」ことにした話。オオクニヌシは無残に殺されたので、祟りを恐れて立派な出雲大社に祀られた。出雲大社内のオオクニヌシが拝殿の方を向いてなかったり、拝礼の所作が「二礼四拍手一礼」なのも、崇拝より封印が目的の社だから(四=死の類推)。

宇佐神宮も二礼四拍手一礼。実は二の殿の比売大神というのは卑弥呼(=アマテラス)で、これも殺しちゃったから祟りを恐れて、立派な社に祀っているのだァーッ!応神天皇神功皇后の強力コンビで封印しているに違いない!

 

●感想

・日本古代史関連では初めて読んだ本。断片的な情報をうまくつなげてストーリーを仕上げるのは、推理小説のような面白さがある。ド素人の私に興味を持たせてくれたキッカケではあるが、多少知識のついたあとで読み返すと、素人が好き勝手ブチ上げてるだけなのがわかって恥ずかしい。

・素人でも指摘できる齟齬がある。例えば宇佐神宮のくだり、応神天皇が八幡さんと習合されたのは後世の話なので、この論はおかしい。また、序盤では卑弥呼は民衆に殺されたって言ってたのに、途中からオオクニヌシ同様に征服で殺されたって話になってるし。

・ちゃんと言えばアラはいくらでもある。読みやすく印象的で、人に興味をもたせるという側面ですごく価値があるのは認めるものの、これだけ読んでへーと言って終わってしまう人も多いだろうし、価値の総計はほんとにプラスになってるのかなぁ、心配だ。

 

  ●論点ピックアップ

・アマテラスといえば皇祖神であり神道最高神。でも天皇家が伊勢に参拝するようになったのは明治以降のことだ。古くは宮内に祀られてたのが災いなすので移されて、巡り巡って伊勢に行った。元々は武神でもあり、恐れられ遠ざけられたのだろう。ちなみに本地垂迹説では=大日菩薩さま。

八幡神は元々渡来人の神で、だから総本山は北九州の宇佐にある。後に応神天皇と習合して第二の皇祖神になり、京都石清水に勧進されると怖いアマテラスに代わって天皇家御用達の存在になった。八幡大菩薩なんつって仏教の神様にもなったし、ポピュラー度は最強。

・これらに次いで重視されたのが春日大社で、これは最強の貴族・藤原氏氏神さま。当時の権力構造が反映されている。

 ・国津神最高神オオクニヌシは別名がたくさんあるが、それっていろんな神話の集合体なのかも。また出雲大社の祭祀を担う出雲国造は、かつての豪族でありアマテラス直系の子孫ともされる生き神様でもある。これがオオクニヌシを祀っているのは変であり、謎。国造ご本人が祭祀の対象っぽいが??

 ・菅原道真公は祟りを恐れて祀られたのに、天神(=雷神)と習合して人気が出た。徳川家康公あたりから祟りと無関係に偉人を祀るようになったけど、こういうのは参る人も墓参り程度にしか思ってないので、他の神様とは趣が違う。ガチの神様は畏れを伴うのだ。

 

●感想

 知名度の面で主だった神道の神様&神社を紹介する本で、平安以降の日本人が神様とどう付き合ってきたか、という話がメイン。著者の個人的見解は控えめに、主だった神様の話題をさらってくれてるので、神道に関する入門には丁度よかった。昔の神仏習合ってすごく浸透してたらしくて、これは現代人にはない感覚なので新鮮。逆にいえば政府主導の神仏分離が見事に機能したって意味でもあって、それはまた凄いなって別のところで感心してしまったり。

 

大和朝廷 (講談社学術文庫)

大和朝廷 (講談社学術文庫)

 

 ●論点ピックアップ

・ヤマトの名の勃りとは。ヤマトという地名はたくさんあるが、かつて「ト」の発音には2種類あって、ヤマトのトと合致するのは畿内。九州付近は別のトなので畿内起源説が有力。

 ・三世記は魏志倭人伝邪馬台国の記録がある。その位置も書いてるが、素直に読むと九州通り越して南の海にたどり着く。読み方か書き方かが間違ってるぽくて、いろんな解釈で九州説とか畿内説とかが出たけど、この記録から断定するのは無理。

・四世紀は文字記録がない謎の世紀だが、畿内から古墳文化の発展が見られ、王朝成立の気配。記紀でいえば崇神天皇ヤマトタケルのころ。霊山・三輪山の祭祀権を獲得したこと(=オオタタネコ)によって三輪王権と呼ぶ。昔は祭祀権=政治だった。ちなみに三輪山周辺は山の合間で、語源としてヤマト感がある。崇神朝を北方系の騎馬民族による征服王朝とする説があり、示唆に富むが証拠不十分。

・五世紀、応神~の時代。応神前の系譜には政治的潤色の感が激しくて(神功皇后ヤマトタケル)、諡号の系列にも~イリヒコ→~タラシヒコと隔離があり、系譜の断続が懸念される。中心地も河内に移ってるし、別系統の王朝と思われる。よって以降を河内王朝と区別して呼ぶ。

 

●感想

上2つで紹介したのよりだいぶ学問として本格的に、古代日本史を考察するための主だった知識と論点をさらってくれる本。名のある学者さんが平易な文章で書いてくれたもので、私のイチオシです。拠り所になる文献の信頼性についても逐次議論してくれて実に理性的、これぞ見習うべき学問の姿勢です。あやしげな自説を他人に納得させるための本を書くような輩には、この本のシミでも煎じて呑ませてやりたい。それでも、この著者さんが個人的に支持する論というのはあって、それを事実と共通認識にすべきでもないので、注意は必要。考古学では客観性を担保するのが難しいのだ。(ちなみに著者さんの立場は、邪馬台国大和朝廷の前身で、その勃りは畿内であり、崇神・応神・継体の三王朝が交代したとする説をとっています)

 

日本の神々 (講談社学術文庫)

日本の神々 (講談社学術文庫)

 

  ●論点ピックアップ

イザナギイザナミは、原初は海の神だった。一方で記紀の神話はイザナギを天空、イザナミを大地の神として、天地の結婚による世界創造を意味しているようでもある。いずれが先行したか不明だが、後世では両者の要素は並存している。

・この二柱は元々淡路島周辺の海洋民の祀るローカルな神だったが、後にアマテラスの親神&世界の創造神にまで格上げされた。伝承の舞台が出雲やら日向やら広くなったのは後付け。

スサノオは、高天原にいるうちは聖地を冒涜する巨魔の役割だが、追放されてからは普通の人間的英雄に豹変する。元々別の話をツギハギして、天津神系と国津神系の橋渡しさせてるのかも。出生譚からして太陽と月の兄弟として出てくるのは不自然で、元々はいなかったのに割り込ませた感がある。というか、失敗作のヒルコの話がスサノオとすり替わっていると読むと、書紀の記載は非常にシンプルになる。

スサノオとアマテラスのウケヒで生まれた子は、天皇家の祖先アメノオシホミミの他にもたくさんいるが、どれも出雲やら宗像やら各地の有力豪族の祖先。みんな同じ系譜ってことにしよう、という政治的思惑が明確。

・皇祖神は実は元々タカミムスビだったが、7世紀頃に伊勢あたりで信仰されているアマテラスが割り込んできた。子でなく孫が降臨するのも、2つの降臨神話を無理につないだせいでは。

・天岩戸は冬至に弱った太陽が生まれ変わる儀式・鎮魂祭の説話化。続けて催される大嘗祭は、復活した太陽が降臨する天孫降臨の説話化。

記紀とは、既に存在していた多数の神話を、政治的思惑をもって高度なコントロールのもとに編纂したもの。この時既に、原始的な口伝の神話とは性質が異なるものに変貌している。

 

●感想

プロがプロ向けに書いた本で、私のごとき素人が読み切るには少々ホネだった。統一見解と個人的見解の区別はわかるように書いてくれてるが、参照する文献は国内外に渡りあまりに広範で、真偽を疑いながら読み進めるのは無理。膨大な情報の前にただうなずくのみ。

神話の原像に迫ろうというテーマは実にスリリングで、細部を読み飛ばしてでもその論旨を追う価値がある。もっと知識がついたら、もう一度読み返そうと思う。

 

アマテラスの誕生 (講談社学術文庫)

アマテラスの誕生 (講談社学術文庫)

 

   ●論点ピックアップ

・昔は神社に社はなかった。神様は天にいて、社に常駐するとされてなかったので。神様が地上に天降る手順もきまっていて、それは次の通り。この認識が、当時の文化風習を理解する上でとても重要。
 1.神様は船や岩に乗って山に降りてくる
 2.それから人が用意していた木(みあれ木)に憑依する
 3.人が川べりまで木を持っていくと、神様が川にもぐる
 4.巫女(棚機つ女)が神様をすくい上げる

・原始的な太陽信仰は各地にあった。「天照」の字でアマテルとよばれる男性神もちょいちょいいた。紀伊の太陽神信仰がある時期に官製の女性神アマテラスにすり替えられ、各地の信仰もアマテラスに統一されていった。

・時を追うと、巫女はよく神様と混同される。アマテラスが女性なのは、元々天皇家の信仰してた高木神の巫女だったから。よく2人セットで登場するのもそのせい。

・アマテラスが成立したのは壬申の乱の後。天武・持統の治世が胎動の時代で、持統天皇が退位した後が誕生の瞬間。神話の天孫降臨で、子でなく孫が天降るのは、持統天皇が孫(文武天皇)に王位を譲った経緯が反映されている。

 

●感想

自説を力説するタイプの本なので、批判的な視点がないのは注意ですが。古事記成立前の信仰形態って現代とは全然違っていて、そこを推測しつつアマテラス成立の謎を追う過程はなかなかに刺激的だった。アマテラスが作為的に作られたって説がそもそもホォーってカンジ。
特に最終章で描かれる、アマテラスの黒幕:持統天皇の心情なんかは、ちょっと学問じゃないんだけど愛情たっぷりな筆致で、ステキでした。