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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

読書録19:カンブリア紀関連の4冊

先の記事に関連して、そもそもなぜカンブリア紀の生物に執着すべきか、を知るための本をご紹介する。

tiltowait9.hatenablog.com

 
まずもって、~紀、~紀とは、地層から発掘される生命種のまとまりで分類したもので、その中で最初に位置するカンブリア紀とはつまり、生命誕生の瞬間だ(と最初は思われた)。最初の生物種の増え方が唐突で急激だったので「カンブリア爆発」と呼ばれていて、なぜこうも多様化が進んだのかは進化論に残された大きな謎だったんですな。今ではかなり研究が進んでて、謎の解明に立ち会えるかもしれないのだ。本読んでちゃんと進展を追っていかないとね!


①「ワンダフル・ライフ‐バージェス頁岩と生物進化の物語」/スティーブン・ジェイグールド著

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

 

 まずは定番から。ノンフィクション科学系の鉄板にも挙がる有名作です。カンブリア紀の生物の、想像を絶する肢体と、その研究課程を、読み物として面白くまとめた本。読ませるようにできてるので、人に興味を持たせるには優秀。科学啓蒙に果たしてきた貢献も大きいですが、刊行が古いので最新の見解とのズレも増えてきてるし、ちょっとオススメしない。
もう少し苦言を言うと、面白くするために誇張が多い。未確定な説を事実のように描くきらいがあって、ちょっと科学的な態度ではないなぁと。進化論の解釈も独特で、環境への適応度とか度外視で生き残るのは運が良かっただけだとか自信満々にぬかすもんで、多少知識のある人間が読むと正直イライラする。生物分類にしても見つかった種の数だけ新しい門がいるみたいな説明をしてて、それは夢のある事だけど、今となっては嘘なんだよなぁ。

 

②「カンブリア紀の怪物たち」/サイモン・コンウェイ・モリス著

カンブリア紀の怪物たち (講談社現代新書)

カンブリア紀の怪物たち (講談社現代新書)

 

 著者のサイモン・コンウィ・モリス博士は、カンブリアン・モンスター研究者の第一人者で、御自ら研究が進展してきた経緯を概説してくれる本。新書であることからお分かりのように、知らない人向けの本。
科学者らしい静かな情熱を感じさせる、でも冷静に事実だけを述べる文章で、前述のワンダフルとは対照的。この本の中でワンダフルライフにもかるーくですが言及してて、批判的な言葉を記しています。カンブリア紀関連の本を初めて読むなら、僕はこれを勧めます。
ただ、一般向けに徹してるので、生物種の紹介は代表的な所だけ。その分類をどう考えるとか、僕が期待してたところはあんまし説明なかったので、ちょっと食い足りなかったですが。


③「目の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く」/アンドリュー・パーカー著

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

 

 カンブリア爆発の謎解き本。って、タイトルで結論は全部言ってんだけどね。目が決め手だったってこと。
眼が、捕食者の獲物の探しやすさを増強する→被・捕食者は食われない努力をする(装甲の強化、土に潜る、早く逃げる、等)→それでも喰う努力をする(歯の強化、探知能力の強化、もっと早く追う、等)の繰り返し。眼が誕生したことが淘汰圧を加速し、あとは軍拡競争よろしく変化を加速した、とういう説。
シンプルな説だが、読み終わってみれば圧倒的な説得力だ。え、もうこれで決まりじゃね?反論する奴いるの?なレベル。いまだに確定ではないようですが、少なくとも、淘汰圧が強化される大きな一因だったことは間違いないでしょう。生存競争の理解が深まる、読むべき本ひとつ。

 
④「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」/土屋健著

 もうすぐ白亜紀までたどり着く、古代生物説明シリーズの第一弾。全ページカラーで化石の写真と復元図をキレイに載せていて、図鑑としても楽しめる。最近の出版なので、現時点での最新の研究状況が反映されてるのが良いところ。分類の仕方とか、バージェス以外の発掘状況とか。やっぱアノマロカリス節足動物のはしりって理解なんじゃーん。
なにせ図鑑に近いので、元々興味がないとちょっとつまんないかも?浮ついたところのない、科学の眼で解説してくれてるので、僕は好き。

 

(追記)
爆発の謎解きは、アンドルー・H・ノール著「生命 最初の30億年」に詳しかったりします。以下でご紹介しました。