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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

読書録9: 「万物理論」 グレッグ・イーガン

万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)

というわけで、物理の大統一理論の発表に関するSF小説。究極の物理法則に辿り着くってことは、世界の理解の仕方が決定することになるわけで、何かと宗教的な意味合いが出てくるわけで。ついに大統一理論が発表されると噂の学会には、いろんなプロパガンダを叫ぶ人が集まった。中には、理解すること自体が宇宙を変えてしまう!とかトンデモなことを言い出す人までいて・・・、というお話。

なんとバカバカしいSF的大風呂敷!大統一理論がごとき、およそ実用には役立たない学者の遊びに、これほどの重みを貼り付けるとは。なんて、なんて、オタッキーなんだ!

理解が宇宙を変えるなんてトンデモ説のようだが、恐ろしいことにコレ、理屈では否定できないのだ。量子力学によれば、観測行為が現象に影響を及ぼすという。拡大解釈すれば、人間が観測する(⇒理解する)ことによって世界が成り立っているのではないか。であれば、究極の理解に辿り着くこと、それはをまさに世界の在り方を根底から覆す!かもしれない、、、と。
事実は小説より奇なり。量子力学はバカSFより遥かにバカバカしいことを肯定している!普通なら、量子力学なんか丁重に無視して生きたって何の障害もない。原子以下のスケールで何が起こってようがどうせ見えないし、リアリティなんて無い。でも、そんな物理の真相が、目に見える現象を引き起こしたら、どんな無茶苦茶なことになるか??
つまり、シュレディンガーの猫、宇宙版。

斯様に見事なSFオタク的小説だけど、物理学が世界の解釈を覆してしまったいま、この世界を人間がどう受け入れていくか、という至極まっとうな哲学的テーマに正面から取り組んだ小説でもある。その世界解釈にたどりつくには、SFオタクの土台が必要なんだ。SFオタクだけじゃなく、万人に薦めて読ませてやりたい傑作だと言いたいところだが、このSFハードルの高さゆへ、僕の周囲に取り合ってくれる人は少なのだなぁ・・・