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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

読書録5: 「利己的な遺伝子」 リチャード・ドーキンス

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

遺伝子生物学に関する、一般向け解説本の古典。生命の神秘とか、そういう幻想をぶち壊す本。
さて、遺伝子ってなんでしょう。生物の設計図?間違ってはいないけど。生物の構成部品のうちの1つ程度に見てない?

ちがう。その程度の理解では足りない。

遺伝子こそが、生命とかいう現象の本質なのだ。はじめに遺伝子があった。細胞とか、生物としての体は、遺伝子がより効率よく増えるための乗り物に過ぎない・・・。脳ミソも、脳が宿した意識ってやつもそう。
太古の海に、たまたま、自分を複製する性質をもった高分子(=遺伝子)ができた。こいつは壊れたコピー機みたいなもんで、原料さえあれば手当たり次第コピーを作る。コピー機がたくさんあると、コピーの効率にもばらつきができて、自然とコピー効率のいい種類が増えてゆく。そこにはただ、増える機能があるだけで、増えたいという意思も、増えるべきという思想もない。たまたま効率のいいほうがより増えるというだけ。そして、たまたま膜で覆われる機能ができたら効率が上がり(=細胞)、それがたくさん寄り集まったらもっと効率がよかった(=多細胞)。さらにさらに、脳があるほうが、意識があるほうが・・・。
ただの高分子から、今ここにいる’わたし’ができるまでの道のりは地続きだ。これがイメージできてしまえば、否が応にも、その過程に神様やら魂やらの関わる余地がないと理解してしまう。生物は所詮有機高分子の集合体、だなんて、昔の漫画のマッドサイエンティストが言いそうなことだけど、やっぱりそれが真実みたい。
そういう思想的な部分をおいといても、動物昆虫大好きな小学生だった私には、昔から気になってた雑学レベルの疑問が次々解消されて、爽快だった。子供を作らない働き蜂が何をモチベーションにがんばってるかとか、なぜどの生物もオスがメスを追いかけるのかとか(逆でもいーじゃん)。模倣子のくだりはちょっと勇み足だったかな?
良質なSFを読んでるような楽しさがあって、しかもそれが事実なんだから、こんなに楽しい話はない。私の知的好奇心をピタリと満たしてくれた一冊。