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剣道における応じ技の使い分けについて

出小手とか出鼻面とか、応じ技、使い分けられてますか?ちなみに私は無理でした。剣道しなくなって久しいが、今になって思考が整理されてきた。今剣道再開したら超強いんじゃないかと妄想が捗るがまあ現実そんなことはないだろう。とりあえずまとめておく。

下の図は、相手方の打突動作を時間で切り分けたときに、発動可能な応じ技のタイミングをまとめたもの。

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相手方の打突動作を「振り上げる」「振り下ろす」の2挙動に分けて図にしたものの、実際には僅かなタイムスパンでしかなく区分は無理なのだが…。生物の反射運動には有限の時間間隔を要するので(脊椎反射だとしても!)、相手方の打突動作を視認してから出鼻面や出小手で応じるなんちゅうのは不可能で、相手方の動作前半で応じる動作を起こせているなら、実質は相手が動き出す前に察知していて、かつこちらの対応も確定できているということ。対して、相手方の動作後半から発動させる技は、相手の打突開始を視認してから発動してどうにかしているタイプなので、質的に大きく異なる。ということを言いたい。

 

・出鼻面

一本を取れるタイミングが最も広く、相手方の技の種類に対しても適用範囲が広いのが特徴。まずは出鼻面を打つことを想定して駆け引きを行うべき。
特に、相手側が打突前の仕掛けをしている段階で発動した出鼻面は、相手側が本チャンの打突動作を始める前に決まってしまう、先々の先による理想の決まり手である。実例としては先日の全日本大会の前田選手vs竹下選手が素晴らしいので下に動画を置く。出鼻面の名手同士による応酬が見れる名勝負である。
まず前田選手が1:32~で決めるのが、やや出遅れて発動させたにも関わらず先に当たる神速の出鼻面。
次いで4:49~に竹下選手が面を返すが、これは前田選手に打突の気配はなく、単純な飛び込み面に見える。単に居着いたところだろうか、或いは当事者にしか感じられない動作の起こりだったのだろうか。
そして三本目は11:32~、竹下選手の面。攻めようと間合いを詰める前田選手の、踏み込む動作に合わせて面。前田選手はまだ打突しようともしてないが、これもまた出鼻面、というかこれぞ出鼻面の真骨頂だ。

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前田選手が見せてくれたように、発動が相手方にやや遅れるタイミングであっても優位な相面となり、一本にしてしまえるのが魅力。また相手方の技が面でなくてもどうにかなるのが大きなメリットで、よしんば面が当たらずとも相手の仕掛けを潰してしまえる。強い出鼻面があるとイメージさせるだけでその後の駆け引きを大いに優位に進めることができるので、序盤で1発くらい見せておきたい。
リスクといえば出鼻を捉えたつもりが相手方の誘いに乗ってしまった形になるのが最大のリスクで、そりゃもう出小手返し胴されるがままである。(下で紹介する動画の、内村選手にやられる竹下選手のように…)

 

・出小手

美しい技である。相手方より先に発動し、技の起こりを完ぺきに捉えた小手の見事さといったらない。
出鼻面に比べると、少々発動が遅くなっても決めてしまえるのがメリット。打突部位が中段に構えた竹刀の位置に近く、なにせ捉えるまでの時間が速いので、相手が面とわかっている場面ならば出小手が最も確実だ。例えば面を誘って打たせた場面。
小手を外してしまっても、即ひっついて後打ちをもらうリスクを低くしやすいのも出鼻面との比較で利点になるトコロの一つ。

一例として、先日の全日本の内村選手vs竹下選手の内村選手(8:50~)。厳しい攻めから面を誘い、相手方とほぼ同時に発動。床を叩く動作は正剣ではないが…おもくそ叩き込んだ感が爽快。

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有用な割に比較的習得しやく、中学生くらいまで猛威を振るう。
対して、相手の技が面でないと当たらないのがシンプルなデメリット。また、なにせ相手方の手元が上がっていないといけないので、先々の先には使えない。
出小手狙いバレバレの初級者は誘い出されて相小手面の餌食。この洗礼を味わってからが剣道の駆け引きの始まりだゼ、青少年たちよ。
ところで出小手や抜き胴は後の先とされがちだが、相手をコントロールして放つそれらは、先の先と呼ぶべき技だと思う。

 

・抜き胴 ~ 返し胴

体を切り裂く動作が超カッコいい。最強のメリットだが太刀筋が複雑で初級者には困難な技である。
こちらの動きが大きいので、相手に対応されてしまう可能性が高いのがデメリット。対策としてギリギリまで引き付けてから発動させる必要がある。相手の起こりが完全に読めている場合でも、同時~以降に発動するよう待たなければならない(面か小手なら相手より先に発動していい)。タイミングはシビアだが、面を除ける動作が組み込まれているので、被弾のリスクが少ないのが実用上のメリット。(相手が面でなく小手だった場合、喰らいます。先日の全日本決勝の内村選手のように…)

実例はこれも上の動画(内村選手vs竹下選手)で、9:05~内村選手の2本目が見事。勝負!の掛け声から一気に間合いを侵略し、面を誘って返し胴。発動は1本目の出小手よりわずかに遅いが、それ故に完璧に捕らえている。

 

・返し面、擦り上げ面、余し面、など。

相手の技の起こりを視認してから発動する技たち。これが後の先。相手の技を捌いてからの打突なので被弾のリスクが小さいが、相手方も避けるチャンスがあり結構決めにくい。相手の技の起こりを十分察知できている場合は出鼻面か出小手のほうが確実なので、誘ってもないのに相手方が自主的に飛び込んできたところを仕留める技と理解するとよろしかろう。実例としてはまた先日の内村選手、vs齋江選手の2:30~。遠間からのやや強引な飛び込み面に対し、見事な返し面。内村さんにはもう面打っちゃだめだ。出鼻面、出小手、返し面、この人は脊椎反射でどれでも出せる。

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