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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

折り紙3 : Origami insects

前川氏以降(正しくは吉澤氏以降でしょうか)折り紙というのは凄まじく進歩したけれど、ガチの折り紙師はもうあっちの世界に旅立ってしまっていて、私のような折り紙好きの一般人+α 程度の人間が楽しめる、「悪魔」と同等~それ以上くらいの折りごたえの折り紙本って、今でもそう多くなかったりする。おかげで洋書まで探すことになる。 

Origami Insects (Dover Origami Papercraft)

Origami Insects (Dover Origami Papercraft)

 

 Eテレの番組「スーパープレゼンテーション」にも出たラングさん(Robert J.Lang)の著作。今どきは折り紙も日本人の専売特許ではないのだ。洋書といっても図はわりかし丁寧なので言語の問題は心配しなくてもいい、悪魔が難なく折れるくらいに慣れていれば、読解はできる。…が、悪魔が可愛く見えるくらい過酷である。奇を衒ったフォルムでもないのに、なんだこのキツさは。リアリティのある頭身にするのは、こんなに酷なのか。さんざん苦労した工程を「裏も同様」とあっさり指示されて度々心が折れる。なにせ昆虫だから、左右対称なのは当然だが…

以下、苦労して仕上げた作品たち。

Praying mantis、カマキリ。本書を買って最初に挑戦したのがこれ。あまりに沈め折りを連呼するので悲しくなった。どうにか最後まで漕ぎ着けたものの、カマの表情付けのとか超適当だし、なにかと残念な仕上がり。今のところ折り直す気力が沸かない。f:id:tiltowait9:20180319004705j:plain

 

Hercules beetle、ヘラクレスオオカブト。この本の中ではまだ簡単なほう。カマキリの後にチャレンジして、どうにか仕上がったことでちょっと自信が持てた。脚の細さに昆虫感が満ちている。f:id:tiltowait9:20180306012306j:plain

 

Dragonfly、トンボ。脚が厚ぼったくなりすぎでもう表情付けできてない。f:id:tiltowait9:20180322002715j:plain

 

Cicada、セミ。なんとつぶらな瞳。顔の先端や目を破らず折りきるのは至難。写真はなんとか破らずに仕上がっているけど、これはたぶん3匹目だと思うから…f:id:tiltowait9:20180406172217j:plain

 

Paper wasp。いわゆるハチノスを作る蜂をこう呼ぶらしい。あれ植物の繊維を刻んで作ってるから、確かに紙みたいなものだね。紙で折られるべき名前をしている、とのこと。なお翅と触覚はインサイドアウトしてるんだけど、両面同色の紙を使っているので伝わらない。f:id:tiltowait9:20180327001153j:plain

 

Stag beetle、クワガタムシ。大アゴに枝分かれを作るのがニクい。欲を言えばもう少しアゴが誇張されたフォルムの方がかっこいいんだけど。f:id:tiltowait9:20180415232518j:plain

 

Scorpion、サソリ。本書のトリを飾る作品。ハサミ2本+脚8本+尻尾1本と、とりあえず凸部を増やしてやろうという目論見あらわ。ハサミと尻尾を大きく取るために強引な設計が敢行されている。f:id:tiltowait9:20180418004821j:plain

 

などなど。最初こそ「なんじゃこら、やってられるか!」と憤慨したものの、やってれば不思議と慣れるもので、最終的にはどれも1回目で折りきれるくらいに上達した。難しいからこその満足感というのは間違いなくあって、今はもう簡単な折り紙では満足できなくなっちゃったかも。シンプルな造形に留める魅力も理解できるものの、技術の高度化というのもまた、退けがたい魅力なのだなぁ。

ちなみに使用した紙は全てこちら。

エヒメ紙工 工作用紙 両面薄葉紙 八ツ切 赤 100枚入 ONCA-05
 

「薄葉紙」ってのは靴を買ったときにクッションで入ってるような極薄の紙のこと。こちらは薄葉紙にしては張りがあって、丈夫さと薄さの兼ね合いで複雑折り紙には丁度よい。正方形ではないので、折り紙化するためにカッターと定規で正方形に切り出しているが、丁寧にやれば寸法精度は十分確保できる。

 

 

tiltowait9.hatenablog.com

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折り紙2 : トップおりがみ

先の記事でご紹介した「ビバ!折り紙」は、前川淳氏の理論と作品を笠原邦彦氏が本にまとめたもの。 

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これにはいくつか続刊があって、そこでは前川氏だけでなくいろいろな作家の作品が、編者の笠原氏の感性によって紹介されている。まぁ、全部廃刊なのだが。今回はシリーズ2作目「トップおりがみ」の話。 これも思い出の一冊。

トップおりがみ (ビバ!おりがみシリーズ (2))

トップおりがみ (ビバ!おりがみシリーズ (2))

 

前著で複雑化の道を開いたのだからその道を邁進するかとおもいきやさにあらず、ユニット折り紙や、多面体作図、表裏一体折りなどなど、トリッキーなアイデアの紹介に紙面が多く割かれている。ユニット折り紙など、今では布施知子さんあたりがかなり複雑なことをやっておられるが、その可能性を提示したのはこの本あたりが端緒のよう。

 ユニット折り紙の単純な例、そのべユニット6枚(3色)からなる立方体。f:id:tiltowait9:20180115225659j:plain

 
同じくそのべユニット6枚の立方体だけど、紙の裏を見せることで2色にしている。f:id:tiltowait9:20180116145702j:plain


そのべユニット12枚からなるくす玉。ネット徘徊で見つけた、この本には載ってなかったオシャレそのべユニットを使用。f:id:tiltowait9:20180116144919j:plain

こんなパターンもある。さっきの12枚のくす玉を、凸を凹みに転じて組んだ場合。f:id:tiltowait9:20180116234800j:plain骨組みみたいになって随分と印象が変わり、これまたおもしろい。

 

少々幾何学な話になるが、このユニットくす玉の巨大化には際限がない。ユニット3枚が絡まる凸形状の底面は正三角形をなすので、ここに注目すれば、まず正三角形の面からなる多面体は構成できる。さらにこの三角形を立体的に組み合わせる2次ユニットを考えれば、2次ユニットの底面は正方形・正五角形・正六角形にすることもできる。こうなれば考えうる多面体はだいたい構成できることになるのであった。上の写真にあるのは正三角形の凸が8点で、正四面体と理解できる。
(この視点では、先に登場した立方体は正三角形4面に囲まれた正四面体である。ややこいね)

そして、軍拡競争よろしく肥大化するくす玉。f:id:tiltowait9:20180119114648j:plain上段右から順に、
 そのべユニット30枚からなる正20面体。(凸1つからなる正三角形が20面)
 そのべユニット36枚からなる正6面体。(凸4つからなる正方形が6面)
 そのべユニット90枚からなる正12面体。(凸5つからなる正五角形が12面)
そのべユニットを量産する工程は一種の精神修養だ。単純な工程を繰り返し折り続ける作業に妙な没入感があり、30枚を作り始めたときにはこれで限界と思っていたのに、出来上がってしまえば上を目指したくなる不思議。本の中では理論値として900枚からなる多面体も紹介されているが、これはさすがにどうかしてる。美しさとしては、右上の「30枚正20面体」がピークじゃなかろーか。

 ユニット折り紙はこのへんで置いといて…
それ以外にも志向を凝らした作品が並ぶ。例えば川崎敏和氏によるバラ、その道では「カワサキローズ」と有名なやつだ。f:id:tiltowait9:20180131013941j:plain複雑系折り紙とは頭の使い方が違う、立体的に曲線的に仕上げる折り紙。美しい。

こんなのも。同じく川崎敏和氏の巻き貝。f:id:tiltowait9:20180325001603j:plain先っぽをネジネジと折り上げる工程が楽しい。川崎博士のアイデアは一味違う。


もちろん複雑系も紹介されている。例えば、ジョン・モントロール氏の作による「オサムシ」。f:id:tiltowait9:20180202065806j:plain昆虫戦争のはしりの時代だろうか。脚6本に加え触覚2本と翅2枚が折り出された、典型的な昆虫折り紙だ。

オサムシの折図の後には、こんなページがあった。

f:id:tiltowait9:20180309011745j:plain「応用は楽でしょう。」じゃねぇ。簡単に言いつつクワガタに折り変えた作例が写真だけで紹介されてて、つい同じものを折りたくなったが、実は背中のヒダを沈め折りするなどなどしていて、全然簡単じゃなかった。しかも触覚(眼?)はまだ再現できてなかったり…


 本書のオオトリ、ステゴサウルス。これもジョン・モントロール氏の作。f:id:tiltowait9:20180120114916j:plain背中のヒダがたくさん、左右ズレて配置されるよう折り出す工程は実に技巧的で、よくこんなこと思いつくなぁと感心する。短足で可愛らしいし、この人の作品は複雑ながらも、古典的な折り紙のデフォルメ感を残しているのが好き。

折り紙1 : ビバ!おりがみ

 その昔、「ビバ!おりがみ」という折り紙本の名著があった。

ビバ!おりがみ

ビバ!おりがみ

 

 「折り紙を設計する」という当時の一般人には驚愕の概念を理詰めで解説していて、その成果としての作例もたくさん載っている。表紙にあるのがその中でも傑作とされる「悪魔」、ツルやカブトで楽しんでいた人間には理解不能な、複雑怪奇な造形を実現しておられる。

小学生時代に図書館でこの本を見つけて感動して、悪魔など手順をそらで覚えるほど繰り返し折ったもの。後年になって改めて購入しようと探したところ、廃刊で入手困難とのことで大層くやしく思ったのでありました。いま古本で入手するなら2万円が相場、暴利だ(買ったけどね!!)。で、悪魔の折り図が埋もれるのは忍びないと思われたのか、改めて上梓されたのがこちら、「本格折り紙」 

本格折り紙―入門から上級まで

本格折り紙―入門から上級まで

 

 設計理論の特に理系的な側面は端折られているのが個人的には残念だが。改めて練り直された幾何学的な説明は十分読む価値あり。また掲載作品に関しては「ビバ!~」からさらに洗練されている。

以下、実際に私が折ってみたもの。

まず、「ビバ!~」にのみ掲載の変形折り鶴。羽の角度がねじれている。(写真ではちょっと分かりにくいが・・・)f:id:tiltowait9:20180324162451j:plain

さらに、変形かざぐるま。中央にオシャレな模様が入る。f:id:tiltowait9:20180324161717j:plain「ビバ!~」では、まず折り紙をたためる条件を幾何学的に再解釈して、伝承折り紙の変形を試みている。折り紙が進化してゆく過程を追ってるみたいでワクワクするんだけど、ココが「本格~」でははしょられている。

飾り兜、これは両方に掲載。こどもの日が盛り上がる逸品、スーパーかっこいい。伝承の兜しか知らなかった時代にこれは衝撃だった。f:id:tiltowait9:20180424030539j:plain

 

で、件の「悪魔」。折り紙幾何学はこんなところまで行き着くのだ。f:id:tiltowait9:20180207004437j:plain何度折っても見事な造形だなぁ。エライのは折った私でなく設計した前川氏。「ビバ!~」と「本格~」の両方に載ってるけど折り手順が違う。一度作った形を開いちゃって、残った折り線から別の形に織り上げる「ビバ!」の手順はアバンギャルドで楽しい。一方、開いたまま折り線をつけてゆく「本格」は、つまらないけど確かにこのほうがキレイに折れる。

 悪魔の前段としての「鬼」、「ビバ!」のみに掲載。f:id:tiltowait9:20180130000235j:plain羽の折り出しがない分、悪魔よりは簡単だ。先日NHKの番組「オリガミの魔女と博士の不思議な時間」で紹介されていて、番組では本と違ってツノをインサイドアウトで白く表現していたので、それに倣ってみた。五本指を折り出す工程は展開図のみで示されているので、解釈にちょいと慣れが必要。

 飛ぶカブトムシ、折図は「本格~」より。「ビバ!~」以降の作品。f:id:tiltowait9:20180305200604j:plainかつては折り紙での6本脚表現は難題だったが、設計理論でそれが当たり前にできるようになって、エスカレートした結果さらにツノが2本と翅が4枚折り出されるに至った。しかも後翅はインサイドアウト

前川氏の折り紙は素朴な遊戯としての側面を大事にしていて、紙が破れるような無理な工程がないことや、紙の厚みや弾性を考慮してもちゃんとまとまること、といった自主規制がかかっている。そんな縛りの中でもこの形ができるんだから、素晴らしいよね。

クジャク、折図は「本格~」より。f:id:tiltowait9:20180129172302j:plain「ビバ!」にもクジャクは載ってるけど、1:2長方形からの作例だったし、正方形から折り出す後発のこちらのほうがなるほど洗練されている。羽の表現は地図や人工衛星に使われることで有名な「ミウラ折り」、コレを折るのは超めんどくさい。

 ティラノサウルス、折図は「本格~」。f:id:tiltowait9:20180119175152j:plain「ビバ!」にも同じお題の作品が掲載されているものの、そちらはフォルムが現実と離れすぎているので前川氏自ら出来が悪いと言っておられる。高度化すれば写実性に寄っていくのが当然だが、折り紙は元々大まかな形をなにかに見立てる遊戯であるわけで、リアリティを持たせつつもデフォルメ感を損なわないバランスを大事にしているとのこと。この仕上がりはなるほど納得。

読書録21 神道と古代日本の勉強本いろいろ

 古代日本は文字がなかったせいで謎だらけ。断片的な中国の記録くらいしか確実な情報がない中、古事記日本書紀などなど神話の中にもいくばくの現実が反映されているだろうと研究されているものの、そんな曖昧な論拠では推論を事実と断定するのは難しい。まぁ、わからないからこそ想像するのが面白いというものでして、古代に思いを馳せるのはロマンなのだ。
旅行で宇佐神宮に行った余波で気分が盛り上がって、関連図書を一気読みしてみたので記録する。願わくは、一つだけ読んでそれが真相に違いないなどと感化されませんように・・・

 

逆説の日本史〈1〉古代黎明編―封印された「倭」の謎 (小学館文庫)

 

●論点ピックアップ

・邪馬台は中国語ならヤマトと読める。大和朝廷の源流に違いない!

卑弥呼は日巫女。皆既日食で民衆の信用を失って殺され、別の巫女トヨ(台与)にすげ替えられた。天の岩戸神話はこの話。

・国譲りは大和朝廷の征服を、「話し合いで譲ってもらった」ことにした話。オオクニヌシは無残に殺されたので、祟りを恐れて立派な出雲大社に祀られた。出雲大社内のオオクニヌシが拝殿の方を向いてなかったり、拝礼の所作が「二礼四拍手一礼」なのも、崇拝より封印が目的の社だから(四=死の類推)。

宇佐神宮も二礼四拍手一礼。実は二の殿の比売大神というのは卑弥呼(=アマテラス)で、これも殺しちゃったから祟りを恐れて、立派な社に祀っているのだァーッ!応神天皇神功皇后の強力コンビで封印しているに違いない!

 

●感想

・日本古代史関連では初めて読んだ本。断片的な情報をうまくつなげてストーリーを仕上げるのは、推理小説のような面白さがある。ド素人の私に興味を持たせてくれたキッカケではあるが、多少知識のついたあとで読み返すと、素人が好き勝手ブチ上げてるだけなのがわかって恥ずかしい。

・素人でも指摘できる齟齬がある。例えば宇佐神宮のくだり、応神天皇が八幡さんと習合されたのは後世の話なので、この論はおかしい。また、序盤では卑弥呼は民衆に殺されたって言ってたのに、途中からオオクニヌシ同様に征服で殺されたって話になってるし。

・ちゃんと言えばアラはいくらでもある。読みやすく印象的で、人に興味をもたせるという側面ですごく価値があるのは認めるものの、これだけ読んでへーと言って終わってしまう人も多いだろうし、価値の総計はほんとにプラスになってるのかなぁ、心配だ。

 

  ●論点ピックアップ

・アマテラスといえば皇祖神であり神道最高神。でも天皇家が伊勢に参拝するようになったのは明治以降のことだ。古くは宮内に祀られてたのが災いなすので移されて、巡り巡って伊勢に行った。元々は武神でもあり、恐れられ遠ざけられたのだろう。ちなみに本地垂迹説では=大日菩薩さま。

八幡神は元々渡来人の神で、だから総本山は北九州の宇佐にある。後に応神天皇と習合して第二の皇祖神になり、京都石清水に勧進されると怖いアマテラスに代わって天皇家御用達の存在になった。八幡大菩薩なんつって仏教の神様にもなったし、ポピュラー度は最強。

・これらに次いで重視されたのが春日大社で、これは最強の貴族・藤原氏氏神さま。当時の権力構造が反映されている。

 ・国津神最高神オオクニヌシは別名がたくさんあるが、それっていろんな神話の集合体なのかも。また出雲大社の祭祀を担う出雲国造は、かつての豪族でありアマテラス直系の子孫ともされる生き神様でもある。これがオオクニヌシを祀っているのは変であり、謎。国造ご本人が祭祀の対象っぽいが??

 ・菅原道真公は祟りを恐れて祀られたのに、天神(=雷神)と習合して人気が出た。徳川家康公あたりから祟りと無関係に偉人を祀るようになったけど、こういうのは参る人も墓参り程度にしか思ってないので、他の神様とは趣が違う。ガチの神様は畏れを伴うのだ。

 

●感想

 知名度の面で主だった神道の神様&神社を紹介する本で、平安以降の日本人が神様とどう付き合ってきたか、という話がメイン。著者の個人的見解は控えめに、主だった神様の話題をさらってくれてるので、神道に関する入門には丁度よかった。昔の神仏習合ってすごく浸透してたらしくて、これは現代人にはない感覚なので新鮮。逆にいえば政府主導の神仏分離が見事に機能したって意味でもあって、それはまた凄いなって別のところで感心してしまったり。

 

大和朝廷 (講談社学術文庫)

大和朝廷 (講談社学術文庫)

 

 ●論点ピックアップ

・ヤマトの名の勃りとは。ヤマトという地名はたくさんあるが、かつて「ト」の発音には2種類あって、ヤマトのトと合致するのは畿内。九州付近は別のトなので畿内起源説が有力。

 ・三世記は魏志倭人伝邪馬台国の記録がある。その位置も書いてるが、素直に読むと九州通り越して南の海にたどり着く。読み方か書き方かが間違ってるぽくて、いろんな解釈で九州説とか畿内説とかが出たけど、この記録から断定するのは無理。

・四世紀は文字記録がない謎の世紀だが、畿内から古墳文化の発展が見られ、王朝成立の気配。記紀でいえば崇神天皇ヤマトタケルのころ。霊山・三輪山の祭祀権を獲得したこと(=オオタタネコ)によって三輪王権と呼ぶ。昔は祭祀権=政治だった。ちなみに三輪山周辺は山の合間で、語源としてヤマト感がある。崇神朝を北方系の騎馬民族による征服王朝とする説があり、示唆に富むが証拠不十分。

・五世紀、応神~の時代。応神前の系譜には政治的潤色の感が激しくて(神功皇后ヤマトタケル)、諡号の系列にも~イリヒコ→~タラシヒコと隔離があり、系譜の断続が懸念される。中心地も河内に移ってるし、別系統の王朝と思われる。よって以降を河内王朝と区別して呼ぶ。

 

●感想

上2つで紹介したのよりだいぶ学問として本格的に、古代日本史を考察するための主だった知識と論点をさらってくれる本。名のある学者さんが平易な文章で書いてくれたもので、私のイチオシです。拠り所になる文献の信頼性についても逐次議論してくれて実に理性的、これぞ見習うべき学問の姿勢です。あやしげな自説を他人に納得させるための本を書くような輩には、この本のシミでも煎じて呑ませてやりたい。それでも、この著者さんが個人的に支持する論というのはあって、それを事実と共通認識にすべきでもないので、注意は必要。考古学では客観性を担保するのが難しいのだ。(ちなみに著者さんの立場は、邪馬台国大和朝廷の前身で、その勃りは畿内であり、崇神・応神・継体の三王朝が交代したとする説をとっています)

 

日本の神々 (講談社学術文庫)

日本の神々 (講談社学術文庫)

 

  ●論点ピックアップ

イザナギイザナミは、原初は海の神だった。一方で記紀の神話はイザナギを天空、イザナミを大地の神として、天地の結婚による世界創造を意味しているようでもある。いずれが先行したか不明だが、後世では両者の要素は並存している。

・この二柱は元々淡路島周辺の海洋民の祀るローカルな神だったが、後にアマテラスの親神&世界の創造神にまで格上げされた。伝承の舞台が出雲やら日向やら広くなったのは後付け。

スサノオは、高天原にいるうちは聖地を冒涜する巨魔の役割だが、追放されてからは普通の人間的英雄に豹変する。元々別の話をツギハギして、天津神系と国津神系の橋渡しさせてるのかも。出生譚からして太陽と月の兄弟として出てくるのは不自然で、元々はいなかったのに割り込ませた感がある。というか、失敗作のヒルコの話がスサノオとすり替わっていると読むと、書紀の記載は非常にシンプルになる。

スサノオとアマテラスのウケヒで生まれた子は、天皇家の祖先アメノオシホミミの他にもたくさんいるが、どれも出雲やら宗像やら各地の有力豪族の祖先。みんな同じ系譜ってことにしよう、という政治的思惑が明確。

・皇祖神は実は元々タカミムスビだったが、7世紀頃に伊勢あたりで信仰されているアマテラスが割り込んできた。子でなく孫が降臨するのも、2つの降臨神話を無理につないだせいでは。

・天岩戸は冬至に弱った太陽が生まれ変わる儀式・鎮魂祭の説話化。続けて催される大嘗祭は、復活した太陽が降臨する天孫降臨の説話化。

記紀とは、既に存在していた多数の神話を、政治的思惑をもって高度なコントロールのもとに編纂したもの。この時既に、原始的な口伝の神話とは性質が異なるものに変貌している。

 

●感想

プロがプロ向けに書いた本で、私のごとき素人が読み切るには少々ホネだった。統一見解と個人的見解の区別はわかるように書いてくれてるが、参照する文献は国内外に渡りあまりに広範で、真偽を疑いながら読み進めるのは無理。膨大な情報の前にただうなずくのみ。

神話の原像に迫ろうというテーマは実にスリリングで、細部を読み飛ばしてでもその論旨を追う価値がある。もっと知識がついたら、もう一度読み返そうと思う。

 

アマテラスの誕生 (講談社学術文庫)

アマテラスの誕生 (講談社学術文庫)

 

   ●論点ピックアップ

・昔は神社に社はなかった。神様は天にいて、社に常駐するとされてなかったので。神様が地上に天降る手順もきまっていて、それは次の通り。この認識が、当時の文化風習を理解する上でとても重要。
 1.神様は船や岩に乗って山に降りてくる
 2.それから人が用意していた木(みあれ木)に憑依する
 3.人が川べりまで木を持っていくと、神様が川にもぐる
 4.巫女(棚機つ女)が神様をすくい上げる

・原始的な太陽信仰は各地にあった。「天照」の字でアマテルとよばれる男性神もちょいちょいいた。紀伊の太陽神信仰がある時期に官製の女性神アマテラスにすり替えられ、各地の信仰もアマテラスに統一されていった。

・時を追うと、巫女はよく神様と混同される。アマテラスが女性なのは、元々天皇家の信仰してた高木神の巫女だったから。よく2人セットで登場するのもそのせい。

・アマテラスが成立したのは壬申の乱の後。天武・持統の治世が胎動の時代で、持統天皇が退位した後が誕生の瞬間。神話の天孫降臨で、子でなく孫が天降るのは、持統天皇が孫(文武天皇)に王位を譲った経緯が反映されている。

 

●感想

自説を力説するタイプの本なので、批判的な視点がないのは注意ですが。古事記成立前の信仰形態って現代とは全然違っていて、そこを推測しつつアマテラス成立の謎を追う過程はなかなかに刺激的だった。アマテラスが作為的に作られたって説がそもそもホォーってカンジ。
特に最終章で描かれる、アマテラスの黒幕:持統天皇の心情なんかは、ちょっと学問じゃないんだけど愛情たっぷりな筆致で、ステキでした。

右翼と左翼

右翼と左翼、区別がわかりにくい。ぐぐればすぐ「革命期フランスの国民議会において、議長席から向かって右側に陣取ってた保守派と、左側に陣取ってた急進派で・・・云々」という語源の説明はでてくるものの、いくら読んでも実際の使われ方にピタっと当てはまらない。使いこなしている人でも大抵は、「コレは右、こっちは左と呼ばれてる」という実例から帰納的にボヤっと把握してるだけではないかと思う。

実例をあげるならこんな感じだ。

・右翼
保守派、穏健派、国粋主義天皇陛下万歳、軍備増強の賛成派、憲法9条改正の賛成派etc.

・左翼
改革派、急進派、平等主義、共産主義、無政府主義、軍キライ、憲法9条改正の反対派、etc.

やっぱりこの言葉だけ比較しても本質は見えんね、対称になってないもの。9条改正は現状変更を試みているわけで保守じゃねーだろとか、天皇陛下万歳の黒い車の人たちは穏健じゃねーだろとか、突っ込みだらけ。ちゃんと理解するのに大事なのは、革命期フランスの保守派が何を守ろうとし、急進派は何を変えようとしていたか、ということ。

当時のフランスはすごく貧富が激しくて、その世界の勝ち組が保守派になって既得権益を守ろうとしたし、負け組がまともな生活を勝ち取ろうとした。貧富の差の源は、「身分制度」と「資本主義」の2つだ。そう2つ、ココが大事。この2つはぜんぜん違う事柄なのに、これらの賛成派と反対派をまとめて右と左に分けるから、混乱の元になるのだ。身分制度か資本主義の、いずれかを守ろうとすれば右翼、いずれかに反対すれば左翼だ。

 

まず「身分制度」。

わざと虐げられる人を作る身分制度はまずい、これは現代の共通認識。現代日本では身分制度は廃止されてるけど、まだ天皇陛下がいる。下はなくとも上はある。だから・・・
天皇陛下を敬うのは右翼。
・軍備増強してお国をお守りしよう!という封建社会的発想は右翼。
・9条改正の賛成派は、天皇陛下万歳系の人と一致するので、そのつもりがなくても右翼。反対派は消去法で左翼。
・無政府主義は身分制度を破壊するための極端な例として左翼。(ノーガードの資本主義に至るので、左翼の思想に沿うとは思えないが・・・

 

次に「資本主義」

昔の資本主義は労働者になんの保証もないノーガードの野蛮な世界で、貧しい労働者は餓死寸前な一方、勝ち組は連日舞踏会。現代の日本は生活保障とか最低賃金とかいろんな制度で最低限の生活が確保されてるし、既に左翼の主張が相当に通った後の世界なんだよね。ともあれ・・・
共産主義は、資本主義を破壊しようとする試みなので左翼。
・労働者の権利を拡大しようとするのは左翼。共産主義でなくとも労働組合は左翼。
・また、社会保障さえあれば資本主義自体は右翼とは呼ばれにくい。

 

あまり合理的な区分じゃないので、右か左かで自分や他人を規定して罵り合うのは意味ないよなー、というのが今日の結論です。

クロスバイクのカスタム紹介2

 

だいぶ前にもクロスバイクのカスタムの記事を書いたけど、その後の推移を追記するっす。

tiltowait9.hatenablog.com

 

前回の記事を描いた当時はこれでもやってた方だったんだけど。今クロスバイクのカスタムで検索すると、凝った記事がたくさん出てきおる。時代の流れを感じるにゃあ。

 

①ハンドル周りを変更f:id:tiltowait9:20170723150928j:plain
グリップ一体型のエンドバーを使ってたけど、より良いポジションを求めて変更。長めのバーを買ってきて、ハンドルバー中程にバーセンターバーとして設置。横向きにグリップする部分は、つけたバーが邪魔して普通のグリップが取り付けられないので、バーテープで処理した。バーセンターバーの方が、ハンドルバーの端につけるバーエンドバー形式より素直な姿勢を取りやすい。
使ったのはこちら ↓↓↓

シマノ  バーテープ Sシリコン ブラック PRTA0001

シマノ バーテープ Sシリコン ブラック PRTA0001

 

この変更で、姿勢の前傾度合いが俄然UP。体重をペダルにダイレクトに乗せる感覚が生まれ、ようやく、スポーツバイクで本来取るべきフォームが取れた気がする。前傾を深めるためにバーセンターバーは長いほうが良くて、この150mmの長めバーがいい感じ。ドロップハンドルの妥当性も実感できるところだケド、クロスのドロハン化は断固拒否。

なおこの構成ではバーセンターバーがブレーキとギアチェンジの邪魔になる。はっきり言って不便。TREK FX7.3は、ブレーキとギアチェンジレバーが一体型であることもあり、配置に自由度がないのが原因。ここも換えてしまうか・・・??

あと、横に持つ長さが短いのでちょい持ちにくい。こうなると、以前ハンドルバーを切り詰めたのが悔やまれる。むぅ。

 

②サドル

長く乗ってると傷んできたので仕方なく。尻のかたちが人それぞれなので、サドルばかりはどれがいいとは一概には言えないらしい。とりあえずデザインと最低限のクッション性と軽さとのバランスを見て選んでみた。

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 採用したのはこちら ↓↓↓

SELLA ITALIA(セライタリア) Q-bik BLACK V09A001AE0007

SELLA ITALIA(セライタリア) Q-bik BLACK V09A001AE0007

 

 重さを実測比較するとこれこのとおり。

f:id:tiltowait9:20170806171026j:plain

314g→271g。思ってたより、元々のが、軽いな。

バーセンターバーでほとんどサドルに体重の乗らないフォームを獲得した今の俺にとって、乗り心地はどれでも変わらんかもしれん。重さの違いは誤差だな、乗り心地としてはようわからん。

 

③タイヤ

前回の投稿で32C→28Cにしてたけど、結局25Cまで細くした。PanaracerのRACE D Evo2。メーカーのラインナップ上の扱いとして、28Cまでは「普段使い用の細め」だったのに対して25Cは「レース用の太め」なので、ネットで探すときの検索ワードが変わるのが注意点。

28C→25Cでギア1枚弱くらい軽くなる印象。スリップの懸念も対して感じないし、イイ感じ…と、一時は満足してたんだけど、後日28Cに戻した。片道9.5kmの通勤に使い始めたところパンクが多発したのが理由だ。段差を超えるテクニックで改善の余地はあったものの、会社に遅刻するリスクは抱えられないと判断。重くはなるけど、やっぱパンクへの安心感という面では圧倒的に28Cで、かなり大きな違いを感じた。戻した先はこちら。 

 通勤にはツーキニスト、それ用に販売してるなりの意味があるナ。タイヤ幅の最適解はやっぱり、用途や距離による。少なくとも32Cまで戻すことはないと思うケド。

 

④小物

自転車の長距離運転はなにせパンクが怖いので、パンク対策グッズは常時携帯するべきだ。ボトルホルダーにフィットする小物入れが売られていて、これが実に便利。ワタシが買ったのはこちら↓↓↓ 

 ここに換えのチューブ、携帯用空気入れ、タイヤレバーを詰めておくのだ。準備がないときに限ってパンクするのが世の常だものね、常時持っとくしかないのだ。重くなるという人は、その分ハラの脂肪を減らせ。

空中逆上がりと空中前回りの物理


素人鉄棒演舞 前と後ろの支持回転

空中逆上がりと空中前回りに関する、物理的考察について。正式には後方支持回転と前方支持回転と呼ばれる技のこと。

どちらも上半身を落下させた勢いでくるっと鉄棒を一周する技だ。でも手の摩擦などなどでエネルギーをロスるので、漫然と保存則に従っていては元通りには戻れない。エネルギー保存則を打破するポイントは、この運動が落下である一方で回転であるということ。つまりは相も変わらず、姿勢制御による慣性モーメントのコントロールがキモである。

①前半=上半身が落下
 慣性モーメントを大きくして、大きな角運動量を獲得する
 →背筋を伸ばし、首も伸ばす。
②後半=上半身が上昇
 慣性モーメントを小さくして、角速度を上げる
 →猫背になり、首をうつむけて縮こまる

これだけ。簡単でしょ?…と言うは易しだが。なにぶん前半は落ちてるわけで、落ちてる時は首をすくめて縮こまるのが抑えがたい本能というもの、そこで背筋を伸ばせとは酷だ。つまり回転技習得の真髄は、恐怖心の克服という精神論がその大勢を締めるのである。

ここまでの話は、鉄棒の周囲を回転する技では共通だ。例えば、足掛け前転&足掛け後転、天国回り&地獄回り、など。私はできませんが・・・大車輪でも同じなはず。

また、鉄棒の反対側に出ている下半身は逆に動くので回転の邪魔。対策としては腰と膝を折って縮めてしまうのが効果的で、これで下半身側の慣性モーメントは如実に減少する。まずはコレで出来るようになろう。

ただし、敢えて膝を伸ばすことは技をより難しくするが、より美しくもする。別の技と言って良いほど俄然難しくなるが、余力があればぜひチャレンジして戴きたい。この場合、さらに上半身側の慣性モーメントを大きくするため、鉄棒は腰ではなく太腿につける。それで落下する側の質量が増えつつ邪魔する側の質量が減って、一石二鳥。とはいえ、曲がりカドの腰でなく直線状の太腿を回転軸として維持するには、それなりの腕力と体幹が必要だ。精神論の次は筋力、実に体育会系だが物理的に不可避な結論なのだ。

つーかもう、体操ってのは総じて言って、身体の慣性モーメントを制御する競技といって差し支えないのであるよ。それに相応しい姿勢を取るためには、恐怖心に打ち克つこと、体幹を鍛えること、この2つに集約されるのでありました。

 

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