tilt log

本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

新海監督のこと

天気の子みてきた。新海監督は昔から見てて、結構好きなのだ。これまで思ってたことを作品ごと時系列でまとめつつ今回の感想など。

 

ほしのこえ(短編) 

ほしのこえ

ほしのこえ

 

  荒削りながら、この人のテーマは既に出し尽くしている。日常描写、会えない二人、遠回りなメールのやり取り、モノローグ、などなど。SF描写はやや陳腐。

 

雲のむこう、約束の場所

雲のむこう、約束の場所

雲のむこう、約束の場所

 

 美しい景色、少女との夏。作品に掛けられる仕事量が相当に増えたのでしょう、背景の美しさはこの時点で見事です。強力な武器を持った作家なのはこの時点で確定ですが、ストーリーは凡庸。SFすきなんだろうけど、やっぱりSFでいいもの出せる人じゃないんじゃ…って思ってた。

 

秒速5センチメートル(連作短編) 

秒速5センチメートル

秒速5センチメートル

 

 そしたらSFを捨てた。作家性の焦点が定まり、奔出するフェチズム。美しい景色と少女、すれ違い。非リア充男子を(昔そうだったおっさんも)もきゅもきゅさせまくる、鬼才が誕生してしまった。このときは、この人はややオタク向けの監督として生きていくんだと思った。

 

星を追う子ども 

星を追う子ども

星を追う子ども

 

 ここに来てびっくりするくらいの凡作。ジブリっぽい要素を継ぎ接ぎしただけで個性がない。要は、普遍性のある長編映画というものに意識的に挑戦していて、その結果として自身のフェチズムを封印したんだろう。今にして思えば、オタク向け監督から脱却する、然るべき通過儀礼だったようにも見える。

 

言の葉の庭(短編) 

言の葉の庭

言の葉の庭

 

 前作の反省からか、フェチズムの先鋭化に戻った。もとより得意分野だった映像の美しさ、細部の表現力が、もう桁違いにパワーアップしてる。傑作である。「秒速~」も連作短編だったし、長編の話作るの下手そうだから、このまま短編作家してくれるのがいいかな~と思ってた。

 

⑥君の名は 

君の名は。

君の名は。

 

 そしてこの超絶ヒット作。ああなんてことだこの人は、フェチズムはそのままに、長編を面白く作ることにも成功してしまった。少女はかわいく、おねーさんは美しく、世界はきらびやかに。前作で獲得した表現力は走り、フェティッシュでもありながら、大きなどんでん返しを用意したストーリーとも有機的に結びついている!大化けもいいとこ、何が起こった??異様な売れ行きもその素晴らしい内容に見合ったことだが、ヒットしすぎたことが次回作以降の作家性を殺してしまうのでは…と心配した。

 

⑦天気の子

 で、ですよ。超絶ヒット作の後、映画監督としてのありようが逸れてしまうんじゃないかと恐れたが、むしろ獲得した力を奔放に作ることに振り向けたようだ。作品の動機だったであろういくつかのシーンは、本当に印象的だった。雨と晴れ間の描写、東京の水害、ラブホの一夜、線路を走るところ、などなど。人の心に刺さるシーンをイメージすることができ、表現することができる。表現者としてのこの人は、もう完璧に信用していい。この先もこの人は自分のフェチを表現し続けるだろうし、それは俺には刺さる。

  落ち着いて振り返ってみれば、ストーリーの全体像としてはあまり上手に作ったものではなかった。じつは物語の骨組みは「君の名は」と同じ部分が多い(二人の関係が恋愛になる瞬間に会えなくなる→なんか頑張って会う、とかとか)。大人の事情に縛られたのか、あるいは、相変わらず長編ストーリーを作るのが苦手で新しいことできなかったのか。前回とだいぶ違うこと盛り込んだようでいて、実は今もストーリー作りがボトルネックな感はある。

 街のルールからはみ出した少年少女が、それを矯正しようとする大人たちに囲まれて、ただ今のままでありたいのにと願う。彼らの切迫感は本当に感情移入できた。泣きそうなくらいだったんだけど、最後にあっさりと語られるように、この世の終わりのように思えた別離もせいぜい2~3年のことで、待てば解決する問題だったりする。本当にそこは、すごくあっさりと語られてしまうんだけど。そういう、若いときの「今がすべて」な感覚を今も鋭敏に持っていて、それを表現の根幹としつつも、客観視できる大人の視線もまた備えているのが、この人のすごいところ。

 まぁその一時的な別離が、二人の関係性を決定的に変えてしまうというのもある話で、「秒速~」でまさにそれをやったわけで、待てば済むとは言い切れないのもよくご承知のところ。「君の名は」も「天気の子」も、その心配がありながらも変わらなかったのが、ハッピーエンドたる所以なのだ。

 ところで、平泉成とダンチの刑事コンビ、この映画の用意したリアリティのレベルから浮いていてやや気持ち悪い。もう少しコメディリリーフ的に使う計画だったのかな?うまくいってないとオモ。

 それと、ご都合主義的なところが散見されました。特に終盤の大事なところで。それでいい、と思っちゃってると惜しい。そういうのって、少しづつだけど没入感を削ぐんだよ。諦めないでほしい。

 ちなみに私はカップヌードルの時間など数えもしない。最初にお湯を入れて、箸や机の準備をして、終わったら食う。少々ベビースター状態だったところで、それもまたうまいのだ。

 結論としては、これからも応援しますがんばれ新海さん、ということです。