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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

剣道における手の内について。或いは茶巾絞りの正体。

剣道の手の内について訥々と思考していたところ、シンプルかつ論理的な理解にたどり着いた。せっかくなので記録しておきたい。

きっかけはホーリーランドという漫画だった。ご存知だろうか、、、まぁ知らなくても構わない。柔道、空手などなど各種の格闘技経験者がケンカで戦う内容で、それぞれ特有の技術について、理屈っぽい解説が入るのが見どころだった。この中に剣道も登場して、剣道未経験者の筆者さんなりに、剣道の手の使い方が素人とは異なるという考察をしていた。この内容、剣道経験者にはどう感じられるだろう。

 

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ホーリーランド 7 (ジェッツコミックス)
 

さてさて。左右の手の間に回転中心を置いて手の位置関係で振るので可動域や速さがスゴイ、という論旨だが。ちょっと違うと感じた剣道経験者の方は多いのではないだろーか。いや実際こんな事しないし…。私も最初はそう思った。でも本当に違うだろうか?

(これをテコと呼ぶか?について、物理屋的な疑問はある。いやそれよりも、面フェイントからの胴を「面抜き胴」と呼んでいるのが一番気になる。)

 

小さな振りでキレのある打突のできる人をよく観察してみるとわかるが、打突の瞬間左手を引いているのだ。左右の手の間に回転を作っている。というか思い直せば、自分も知らんうちにやっていた。そのように教えられた人はほぼいないだろうが、長くやってる人の多くが無意識のうちに、この手の使い方にたどり着いている(特に上手な女性剣士に顕著だと思う。腕力に頼れない分、男性より合理的な動作に到達しやすいのやも)。
試合用の小さな振りではメインエンジンだし、素振りの大きな振りでも肩・肘の動作に加えて剣を加速させる強力なブースターになっている。森恒二やるじゃん!

だがここで思考をやめては理解が浅い。回転で加速する手段はもうひとつある。それが手の内だ。

掌(たなごころ)の中に回転中心を見て、小指で引きつつ親指の付け根で押す。手の内側だけでも、回転を増す力を加えることができる。

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 振り上げた時、小指は開いている。親指付け根の押し込みに合わせて、開いた小指をぐぃと握り込む。手首で振っているのでないことは強調したい。指は握りっぱなしではない!指の一本一本を柔軟に開閉し、掌の中で剣を回転させている。これが、手の内というもの。

もちろん、右手でも同じ。 

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「竹刀は小指で振る」と教えられる理由がここにある。小指が回転力の源だ。対して回転力に寄与できない人差し指は添えるだけ…むしろ振り上げ時に握ったままでいると、剣の動きが手首の可動域に縛られる。邪魔なのでもう握ってもいない。

実際には、「左右の手の位置関係」「左の手の内」「右の手の内」、三つの回転の力を同時にかける。体得すれば下のような肩も肘も使わない振りだけで、風切り音が鳴る程に速く振れる。f:id:tiltowait9:20180911001146j:plain

「両手の位置関係で振る」の観点があるので左右は対称ではなく、左手は小指側で引く力、右手は親指の付け根で押し込む力、が相対的に重要にになる(小手を着けた状態ではここまで精妙な指使いができないので、特にそう)。振り上げたときに木刀から浮く指が、左手は人差し指1本なのに対して右手は中指まで2本浮いているのは、その影響。

ところでこの「左右同時に小指を締めつつ親指の付け根で押す」という動作、剣道経験者諸氏なら今さら言われなくても、もう教えられているんじゃないだろうか。そう、茶巾絞りである。打突の瞬間に両手を絞り込むとキレが増すという、誰もが教えられたであろう言い伝えだ。茶巾絞りの実質を実践できている人でも、ここまでのような理解をしている人は少ないと思うが、そういうことなのですよ。

剣道もいまだ古典武道の空気を残していて、経験的に間違いないんだからだまってやれ!という感じで、教えになぜ?とは問いにくいもの。私も茶巾絞りに効果があるのは実感できているが、その理屈について納得行くものには出会ったことがなかったので、自力で考察してみた次第。そこに理があるのもまた事実である。