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蹴上がりの物理

公園の鉄棒でやるにはちょっと高級な技、蹴上がり。小学校でできたらヒーローだ。この技、この動作でなぜ鉄棒に上れるのかは、大抵できる本人もよくわかってない。ちょっと真面目に考察してみた。

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素人鉄棒演舞 蹴上がり

 まず間違っちゃいけないのは、懸垂よろしく腕力で上がっているのではないってこと。肘は始終伸ばしっぱなしで、体を持ち上げるような使い方ではない。
同じく足を振りおろす反動で浮き上がるのでもない。足を上下しても体の重心位置は変わらないからだ。
パッと見ハデな足の上下動で捉えるのが誤解の元で、蹴上がりとはやはり鉄棒を中心とした回転運動なのだ。問題が足なのはあってるが…よく見れば、体が鉄棒下(図の②)にあるときは水平方向、体が鉄棒横まで来たら(図の③)上下方向、と回転する体の進行方向とちょうどテレコになっているでしょう。これが大事!要は足の反動が、上半身の回転運動を加速していて、結果として上半身だけ鉄棒の上まで回転が進む。足を置き去りにして上半身だけ加速させる、とイメージすると分かりやすいだろか。このためには、足の振り下ろしは速ければいいというものではなくて、重心の振り子に即した「適切なリズム」で振るのがキモになる。体感的には早くなりすぎないよう「ぬぅっ」と遅く振るくらいの気持ちがちょうどいい。

また、回転運動中における慣性モーメントの減少、として理解するのもイイ。回転軸に対する質量分布を変形させると、角運動量は保存されるので角速度が変わる、フィギュアスケートでスピンを加速させるアレだ。上半身が先行することで、足振り上げ時の姿勢(図の①)では胸元にあった重心が、足を伸ばすと腰辺りにスライドする。結果として肩が重心から離れ、肩の開き角が小さくなり、肩が閉じたぶん体の重心が鉄棒に近づいて、めでたく鉄棒を回転軸とした慣性モーメントが減少する。待ってましたと角速度が増大して、体が鉄棒の上まで浮き上がるのであった。

(※姿勢の変化自体は、鉄棒を回転軸とした慣性モーメントを増やす方向に働く。畳んでいた体を伸ばすので、体の重心を回転軸とした慣性モーメントは大きくなる。平行軸の定理から考えれば、鉄棒を回転軸とした慣性モーメントも増えてしまう。)

この考察結果を具体的な動作のコツに落とし込んだのが、下のリストだ。

(1) 足の振り上げでは、膝やフトモモではなく足首を鉄棒に近づける。重心を極力回転中心の鉄棒から遠ざけ、大きな角運動量を得るため。
(2) 足の振り下ろし始めは一呼吸おいてから。最下点まで振れ戻って、位置エネルギーがしっかり運動エネルギーに変換されるのを待つ。
(3) 肘は始終伸ばしっぱなし。肘を曲げると、回転軸(鉄棒)から重心(腰)が遠ざかり、慣性モーメントを小さくできない。
(4) 足の動きが効率的に上半身を加速するよう、適切な速さで振る。速ければ良いものではなく、体が上がりきるのと足を振り切るのが同時になるくらいにコントロールする。”上半身の振り子運動から足を置き去りにする”イメージ。
(5) 体が持ち上がってきたら、手首を上に返す。これは物理じゃなくて人体構造に起因するコツだけど、意識してやらないと最後の最後で体が鉄棒に乗っかるのを腕が邪魔してしまう。

さあ皆の衆、蹴上がりをマスターして子供の尊敬を勝ち取るのだ!

 

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