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読書録20: 「生命 最初の30億年」 アンドルー・H・ノール

 

生命 最初の30億年―地球に刻まれた進化の足跡

生命 最初の30億年―地球に刻まれた進化の足跡

 

地球ができてから今まで45億年、最初の生命の痕跡らしきものが見つかるのが35億年前、そして動物の化石が見つかるカンブリア紀が5.4億年前。この約30億年に渡る単細胞生物の時代を、フィールドワークの苦労も混ぜつつ概説する内容。進化の話と言えばカンブリア以降が主流のところ、その前に焦点を当ててるのは結構、貴重。

生物と言えばせいぜいイヌネコ、広く見ても昆虫がせいぜいの一般人にとって、「動物」と「植物」を並列の概念と理解するだけでも結構思い切ってるんだけど、実は「動物」「植物」とは別枠の生物もいっぱいいる。「菌類」「繊毛虫類」「粘菌類」とかがそうで、しかもここまで全部まとめて「真核生物」って概念で括れて、更にその真核生物と並列な概念として「原核生物」「古細菌」なんてのがいる。「動物」が生物全体のほんの一部に過ぎないって、結構ショッキングよね。こういうショックこそ科学の醍醐味ですよ。この本を読んで生物の黎明期を追えば、ド素人の生物の概念が塗り替えられること間違いなし。

終盤にはカンブリア爆発の謎解きにもページを割いてくれます。それもかなり饒舌に。たくさんの仮説と著者の意見をきっちり説明してくれるので、これを目当てに読んでもいいくらい。こないだのカンブリア紀勉強本紹介のエントリーに入れるべきだったな。

ややネタバレだけど、備忘録的に、紹介されてるカンブリア爆発関連の仮説をリストにしておく。

1.有性生殖の誕生で、遺伝子の変化が加速した。
 →有力そうだけど、無性生殖でも遺伝子の交換は結構起こってるので、決め手になるかは疑問。

2.刺胞生物門の誕生。その前にいるのはせいぜい海綿動物門で、多細胞のまともな捕食者はいなかった。積極的に捕食する生物の誕生が、淘汰圧を高めた。
 →「眼の誕生」と似てるけど、視覚の前にも淘汰圧が大きくなる段階がもう一つあった、って感じですね。こう考えると、あの本の結論はやや視野が狭いか。

3.そもそも爆発と言うほどのことは起こってない。条件がそろえば、生命の進化スピードは数千万年あればカンブリアンモンスターを生み出しうる。
 →そうかもしれない。ただ30億年起こらなかったことがここで起こったわけで、それまで足りてなかった条件とは何なのか?それが問題だ。

4.カンブリア紀に起こったのは無機質の骨格の獲得。それ以前もちゃんと進化してたけど、化石になりにくかっただけ。
 →そんなことはない。カンブリア紀には生痕化石も増大してて、形だけでなく行動様式も爆発的に多様化している。

5.エディアカラ生物群が大量絶滅して、天敵のいない生態系が一時的に発生した。その隙を突いて、生き延びた左右対称生物たちが一気に多様化した。丁度、恐竜の絶滅後に急速に多様化した哺乳類のように。
 →著者さんお気に入りの仮説。ただし、エディアカラ生物群が大量絶滅したきっかけは不明。個人的には、エディアカラ生物群が減ったのは、ただカンブリア紀チームに生存競争で負けただけじゃねーの?って気もする。

6.最初は酸素濃度が薄くて、生物が巨大化できなかった。必要な濃度に達したのが6億年前くらいだった。
 →有力。ただしこれは、カンブリアじゃなくてエディアカラの契機ですね。

 

色々考えるなぁ。面白い!地球システムにまで及んでるあたり、一昔前とは議論のステージがあがってるなぁって感じ。専門用語が説明少な目に連発したり、図の入れ方がちょっと不親切だったりするので、元々興味ある人向けの本ではありますかねぇ。