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本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

読書録6: 「言語を生みだす本能」 スティーブン・ピンカー

言語を生みだす本能(上) (NHKブックス)

言語を生みだす本能(上) (NHKブックス)

言語を生みだす本能(下) (NHKブックス)

言語を生みだす本能(下) (NHKブックス)

主題はタイトルのとおり。
はぁ?
(↑第一印象)
なんでも人間には、言語を学習して使いこなす本能が備わっているンだと。にわかには信じがたい。いやいや、言語は知識だ、生まれてから覚えるものだろう。日本なら日本語、英語圏なら英語、特有の単語や文法は覚えるものだ。

それはそうだが。そうではなくて。

この本で言いたいのは、言語を学習するという行為が、脳にデフォルトでインストールされたプログラムだってことだ。人間が持っている、全般的な物事に対する学習能力とは一線を画した、言語学習に特化した機能があると。思い返せば、子供が母国語を覚える速さって、やっぱり異常でしょ?それに比べて、第2言語として英語を覚えることの苦労といったら。その違いを生むのは、子供の頭は柔らかいなんて、迷信じみた話じゃあ、ない。そういう、みんなが受け入れてしまっている不思議さをちゃんと付きつめてゆけば、最初に言ったように、言語学習の本能が備わってるという考えに収斂するのであった。
こうしたアイデアに対する直感的な拒否反応は私にもあり、思いつく限り反論を考えながら読み進めたのだけれど、そんなものは著者さん想定の範疇だったようで、見事に順次論破されてしまった。いろんな実験や、言語障害の実例なんかを元に丁寧に推論を重ねてゆくので、説得力がすごい。
人間の思考や学習が自由なものだと考えるのは、人の尊厳とか人権とかを成立させた思想の土台になってる部分であって、だから人間の知的な行為が脳の仕組みとして志向付けられてるっていう事実は、すごく都合が悪い。人間が人間に期待している素晴らしさに、ケチがつく。でもそんなショックはむしろ快感だ。既成概念のモヤにかかって何も見えなかったところが、パっとモヤが晴れた気分。世界のホントのところが見えてくるのは、実に楽しい。