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読書録4: 「ゼロからトースターを作ってみた」 トーマス・トウェイツ

ゼロからトースターを作ってみた

ゼロからトースターを作ってみた

トースターを作るための苦労は、トースターの提供する価値(=パンが焼けるだけ)に、本当に見合っているのか。トースターの価格がチーズより安い(それも、高級じゃないやつ)のは、本当に妥当なのか。そんな疑問を投じるために、ゼロからトースターを作ってみた学生さんの、若気が至りまくったノンフィクション。「ゼロから」ってのは、鉄の部品のために鉄鉱石拾ってきて練成するくらいのゼロから。この苦労話が笑えます。

何でトースターなのかというと、ダグラス・アダムスのSFコメディ「銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズの5作目「ほとんど無害」のワンシーンに由来。未開の地に取り残された現代イギリス人が文明の違いを見せつけようと目論むも、「自分の力でトースターを作ることはできなかった。せいぜいサンドイッチぐらいしか彼には作ることができなかったのだ」。なんともシニカルな視点ですね。僕も好きですよ、このシリーズ。意外と含蓄のあること言うよね。3つ目までしか読んでないけど。
兎角、素材というやつは、身近にありすぎてその有難さがわからないけれど、作るには大量の知識と装置と環境負荷が必要だ。金属は山を削り、毒を撒き散らして抽出してようやくできる。樹脂は原油を掘り出して精製して、難解な化学反応を経てようやくできる。およそ個人レベルで作れるものなんてないのだ。(素材メーカーは安く買い叩かれて苦労してるんだよ。)
そう思って周囲を見やれば、見渡す限りそんな素材に囲まれてる現代の日本人の生活って、相当異様な環境なんだよな。生まれたときからの生活環境に疑問をはさむのは難しい。ゆるい文章の笑える本としてさくっと読めるけど、彼がこのトースター作製失敗談で表現せんとしたことは、すごく価値があるし、現代人ならみんな意識するべき事だと思う。(あっ、失敗って言っちゃった!)