ブランコの物理
正月に旧友と会った。近場の公園を懐かしみつつふらふらとしたのだが、ブランコがなぜ加速できるのか?という問題で盛り上がった。現場には理系院卒が3人いながらも統一見解がなく、意外にも理解できてる人は相当少ないのではと思い至ったので、自分なりにまとめたものを記しておくことにした。
図は手書き乱筆にて失礼。骨子は、回転軸方向への重心の移動だ。図中のAをスタートとして、B→Cで重心を上げる、E→Aで重心を下げるのがブランコの神髄。
まずはエネルギー的に考えるのが簡単。
(A)→(B)で位置エネルギーが運動エネルギーに変換される。位置エネルギーを使い果たした(B)で重心高くして位置エネルギーを加えたら(C)、次の最高点(D)では前(A)より大きな位置エネルギーを得る、つまり高い所まで振れるのだ。
エネルギー抜きで理解するならば。
まずは立ち漕ぎを例にとると、(A)は後ろ向き再高点でしゃがんだ状態だ。速さが最大となる最下点で立つと(B→C)、重心が回転中心に近くなる。このとき、重心の速さvは一定なので結果的に角速度ωが増える。これはスピン中のアイススケーターが手足を縮めて回転数を増やすのと同じ現象だ。
この後、運動が一瞬止まる点(E)でもう一度しゃがめば、エネルギー損失なく重心を回転中心から遠ざけることになるので、上記の動作を繰り返すことができ、角速度ωを増やし続けられる。
座り漕ぎでも同じことだ。子供たちの多くは体や足を前に振り出す動作で加速してる気分になってるが、このニュアンスで想起される前方向への動作は、反作用でキャンセルされてるので無意味だ。体と足を前に振る動作で、重心が上がることが大事だったのだ。僕が子供の頃は、座り漕ぎで加速する感触が全然わからなかったんだけど、この考察をして以来、座り漕ぎが得意になった。
なお、前方の最高点(D)でも重心を落とせば一往復で二度加速できるが、大人がこれをやると加速しすぎてえらいことになる。試すなら自己責任にて。
読書録20: 「生命 最初の30億年」 アンドルー・H・ノール
先日のカンブリア紀関連本の読み足し。
今回読んだのがこちら。
「生命 最初の30億年」アンドルー・H・ノール著
- 作者: アンドルー・H.ノール,Andrew H. Knoll,斉藤隆央
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2005/07
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 40回
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地球ができてから今まで45億年、最初の生命の痕跡らしきものが見つかるのが35億年前、そして動物の化石が見つかるカンブリア紀が5.4億年前。この約30億年に渡る単細胞生物の時代を、フィールドワークの苦労も混ぜつつ概説する内容。進化の話と言えばカンブリア以降が主流のところ、その前に焦点を当ててるのは結構、貴重。
生物と言えばせいぜいイヌネコ、広く見ても昆虫がせいぜいの一般人にとって、「動物」と「植物」を並列の概念と理解するだけでも結構思い切ってるんだけど、実は「動物」「植物」とは別枠の生物もいっぱいいる。「菌類」「繊毛虫類」「粘菌類」とかがそうで、しかもここまで全部まとめて「真核生物」って概念で括れて、更にその真核生物と並列な概念として「原核生物」「古細菌」なんてのがいる。「動物」が生物全体のほんの一部に過ぎないって、結構ショッキングよね。こういうショックこそ科学の醍醐味ですよ。この本を読んで生物の黎明期を追えば、ド素人の生物の概念が塗り替えられること間違いなし。
終盤にはカンブリア爆発の謎解きにもページを割いてくれます。それもかなり饒舌に。たくさんの仮説と著者の意見をきっちり説明してくれるので、これを目当てに読んでもいいくらい。こないだのカンブリア紀勉強本紹介のエントリーに入れるべきだったな。
ややネタバレだけど、備忘録的に、紹介されてるカンブリア爆発関連の仮説をリストにしておく。
1.有性生殖の誕生で、遺伝子の変化が加速した。
→有力そうだけど、無性生殖でも遺伝子の交換は結構起こってるので、決め手になるかは疑問。
2.刺胞生物門の誕生。その前にいるのはせいぜい海綿動物門で、多細胞のまともな捕食者はいなかった。積極的に捕食する生物の誕生が、淘汰圧を高めた。
→「眼の誕生」と似てるけど、視覚の前にも淘汰圧が大きくなる段階がもう一つあった、って感じですね。こう考えると、あの本の結論はやや視野が狭いか。
3.そもそも爆発と言うほどのことは起こってない。条件がそろえば、生命の進化スピードは数千万年あればカンブリアンモンスターを生み出しうる。
→そうかもしれない。ただ30億年起こらなかったことがここで起こったわけで、それまで足りてなかった条件とは何なのか?それが問題だ。
4.カンブリア紀に起こったのは無機質の骨格の獲得。それ以前もちゃんと進化してたけど、化石になりにくかっただけ。
→そんなことはない。カンブリア紀には生痕化石も増大してて、形だけでなく行動様式も爆発的に多様化している。
5.エディアカラ生物群が大量絶滅して、天敵のいない生態系が一時的に発生した。その隙を突いて、生き延びた左右対称生物たちが一気に多様化した。丁度、恐竜の絶滅後に急速に多様化した哺乳類のように。
→著者さんお気に入りの仮説。ただし、エディアカラ生物群が大量絶滅したきっかけは不明。個人的には、エディアカラ生物群が減ったのは、ただカンブリア紀チームに生存競争で負けただけじゃねーの?って気もする。
6.最初は酸素濃度が薄くて、生物が巨大化できなかった。必要な濃度に達したのが6億年前くらいだった。
→有力。ただしこれは、カンブリアじゃなくてエディアカラの契機ですね。
色々考えるなぁ。面白い!地球システムにまで及んでるあたり、一昔前とは議論のステージがあがってるなぁって感じ。専門用語が説明少な目に連発したり、図の入れ方がちょっと不親切だったりするので、元々興味ある人向けの本ではありますかねぇ。
虫の写真、2015夏 ②
今アクセスできる範囲の情報では、種の特定は無理だと悟る。属まで突き止めれば良しとする!
ツチバチ科ハラナガツチバチ属。けっこうでかいからメスだろう。
ドロバチ科チビドロバチ属。1cm前後のハチは撮るのがひとしおタイヘンだ。
アナバチ科(=ジガバチ科)ツチスガリ属。フシダカバチ科とされることも。
当初は上のチビドロバチの類縁だと思って調べて、たどり着けず悩んだ。アナバチ科にはドロバチモドキ科ってのもあって、ドロバチに似てる思ったのはあながち間違いじゃなかったのかぁと思ったり。
ハキリバチ科ハキリバチ属。バラハキリバチであってるかなぁ?
スズメバチ科ドロバチ亜科トックリバチ属。よく来てるけど、花に停まってくれないので、ボクの腕ではまともに撮れない。
以下飛翔シーン撮影の練習。
クロアナバチ(既出)の飛び立つ瞬間
オオモンツチバチ。ピントが甘い!
ジガバチ。ピントは合った。
読書録19:カンブリア紀関連の4冊
先の記事に関連して、そもそもなぜカンブリア紀の生物に執着すべきか、を知るための本をご紹介する。
まずもって、~紀、~紀とは、地層から発掘される生命種のまとまりで分類したもので、その中で最初に位置するカンブリア紀とはつまり、生命誕生の瞬間だ(と最初は思われた)。最初の生物種の増え方が唐突で急激だったので「カンブリア爆発」と呼ばれていて、なぜこうも多様化が進んだのかは進化論に残された大きな謎だったんですな。今ではかなり研究が進んでて、謎の解明に立ち会えるかもしれないのだ。本読んでちゃんと進展を追っていかないとね!
①「ワンダフル・ライフ‐バージェス頁岩と生物進化の物語」/スティーブン・ジェイグールド著
ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: スティーヴン・ジェイグールド,Stephen Jay Gould,渡辺政隆
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2000/03
- メディア: 文庫
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まずは定番から。ノンフィクション科学系の鉄板にも挙がる有名作です。カンブリア紀の生物の、想像を絶する肢体と、その研究課程を、読み物として面白くまとめた本。読ませるようにできてるので、人に興味を持たせるには優秀。科学啓蒙に果たしてきた貢献も大きいですが、刊行が古いので最新の見解とのズレも増えてきてるし、ちょっとオススメしない。
もう少し苦言を言うと、面白くするために誇張が多い。未確定な説を事実のように描くきらいがあって、ちょっと科学的な態度ではないなぁと。進化論の解釈も独特で、環境への適応度とか度外視で生き残るのは運が良かっただけだとか自信満々にぬかすもんで、多少知識のある人間が読むと正直イライラする。生物分類にしても見つかった種の数だけ新しい門がいるみたいな説明をしてて、それは夢のある事だけど、今となっては嘘なんだよなぁ。
②「カンブリア紀の怪物たち」/サイモン・コンウェイ・モリス著
- 作者: モリス.サイモン・コンウェイ,松井孝典
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/03/20
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著者のサイモン・コンウィ・モリス博士は、カンブリアン・モンスター研究者の第一人者で、御自ら研究が進展してきた経緯を概説してくれる本。新書であることからお分かりのように、知らない人向けの本。
科学者らしい静かな情熱を感じさせる、でも冷静に事実だけを述べる文章で、前述のワンダフルとは対照的。この本の中でワンダフルライフにもかるーくですが言及してて、批判的な言葉を記しています。カンブリア紀関連の本を初めて読むなら、僕はこれを勧めます。
ただ、一般向けに徹してるので、生物種の紹介は代表的な所だけ。その分類をどう考えるとか、僕が期待してたところはあんまし説明なかったので、ちょっと食い足りなかったですが。
③「目の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く」/アンドリュー・パーカー著
- 作者: アンドリュー・パーカー,渡辺政隆,今西康子
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2006/02/23
- メディア: 単行本
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カンブリア爆発の謎解き本。って、タイトルで結論は全部言ってんだけどね。目が決め手だったってこと。
眼が、捕食者の獲物の探しやすさを増強する→被・捕食者は食われない努力をする(装甲の強化、土に潜る、早く逃げる、等)→それでも喰う努力をする(歯の強化、探知能力の強化、もっと早く追う、等)の繰り返し。眼が誕生したことが淘汰圧を加速し、あとは軍拡競争よろしく変化を加速した、とういう説。
シンプルな説だが、読み終わってみれば圧倒的な説得力だ。え、もうこれで決まりじゃね?反論する奴いるの?なレベル。いまだに確定ではないようですが、少なくとも、淘汰圧が強化される大きな一因だったことは間違いないでしょう。生存競争の理解が深まる、読むべき本ひとつ。
④「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」/土屋健著
エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))
- 作者: 土屋健,群馬県立自然史博物館
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2013/11/12
- メディア: 単行本
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もうすぐ白亜紀までたどり着く、古代生物説明シリーズの第一弾。全ページカラーで化石の写真と復元図をキレイに載せていて、図鑑としても楽しめる。最近の出版なので、現時点での最新の研究状況が反映されてるのが良いところ。分類の仕方とか、バージェス以外の発掘状況とか。やっぱアノマロカリスも節足動物のはしりって理解なんじゃーん。
なにせ図鑑に近いので、元々興味がないとちょっとつまんないかも?浮ついたところのない、科学の眼で解説してくれてるので、僕は好き。
(追記)
爆発の謎解きは、アンドルー・H・ノール著「生命 最初の30億年」に詳しかったりします。以下でご紹介しました。
生命大躍進展@国立科学博物館
今、上野の国立科学博物館で「生命大躍進」展やってます。
NHKスペシャルのタイアップ企画でして、人間ができるまでの進化上の大きなトピックスを追ういい番組でしたが、科博の見どころは兎に角、バージェス頁岩。レプリカでなく、生のバージェス頁岩。5億年以上も前の生き物を生で見れるなんて感動ですよ。
展示は時代順に並んでるので、最初は先カンブリア時代から。
生命初期の微生物の痕跡、ストロマトライト。凄いんだが…肉目で見ただけじゃ石だ。
エディアカラ生物群もいくらか来てた。写真はディッキンソニアの群れ。でも、軟組織しかなかった彼らの化石は、実態の残ってない印象化石なのでちょっと盛り上がらない。
そしてようやくカンブリア紀、お目当てのバージェス頁岩!
まずはピカイア、脊索にたどり着いた最古の生物。脊索、それは人間に至る唯一解。ほんの数cmと知識で知ってはいたが、実物見ると如何にも小さい。こんなん、ほんまに脊索あるってわかるんか。
おつぎはウィワクシア。ウロコ+トゲの奇態、本で見たまんまだー。構造色を放っていたというが、さすがに今は片鱗も見えない。
ハルキゲニア。最初思ったのと上下も前後も違った変ないきもの筆頭のハルキさん。ちっさすぎて変さがわかりにくいよ、ハルキさん。
オパビニア。5つの目に飛び出たノズル(口じゃない)。ノズル、くっきり見える!
アノマロカリス、満を持して登場。真ん中のは「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」のジャケットに使われてたやつだね!ワーオ!!
エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))
- 作者: 土屋健,群馬県立自然史博物館
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2013/11/12
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口だけ化石も。これじゃ不細工です代のキスマークだ。
主役だから復元模型もアルヨ!
ぬいぐるみもアルヨ!(買っちゃったヨ!)
チェンジャン産のもいっぱい来てました。
バージェス以降の見どころは、ダイジェストにて。
ウミサソリ。史上最大級の節足動物。人間よりでかいサソリとかひくわー
ダンクルオステウスに喰われそうなウミサソリの模型。ダンクル、でかすぎ。
ジュラマイア。胎盤をはじめて獲得した哺乳類の祖。
ダーウィニウス・マシラエ、愛称「イーダ」。
嘘みたいな完璧さだが、レプリカでなく実物化石。奇跡的な美しさで、さすがに震えた。
おまけ。番組でガッキーが作ってた盆栽もありました。
てゆうかガッキーかわいいよね。
虫の写真、2015夏
つうわけで、Canon EOS kiss X4を使った虫撮影の成果。去年はCanon EOS 6D使ってたんだけど、ダウングレードした方がよく撮れるってむかつくなぁ。
レンズはCanon EF100mm F2.8L マクロ。
ハキリバチ。細かい分類はわかんない。
ジガバチは今日もグラマー。
ジガバチとベニシジミがお見合い。このあとは、何事もなくすれ違った。
オオモンツチバチ。花に夢中で撮りやすいヤツ。
クロアナバチ。動きが速くてやや寄り足りない。
絶対強者、シオヤアブ。
絶対強者2、アオメアブ。超寄れた。
知らないハチかと思って意気込んで撮ったが、触角と口がどうもハチと違う。ハチモドキハナアブの類と思われる。見事にだまされた。
ミドリギンバエ。ハチ待ち時の手遊びで撮っただけだが、意外にも複眼の美しさが目を惹く。
改めてベニシジミ。書き割りのような立ち姿。
ショリョウバッタ、若くして人生最大のピンチ!
旅先にて、愛車に見覚えのない鮮やかな色。ベニカミキリである。
高倍率で撮影したいとき、APS-Cとフルサイズのどちらを選ぶかという話
一眼カメラの話。
デジカメでは、センサー(撮像素子)サイズが小さいほど写真に被写体が大きく映るんだけど、これを高倍率と呼んでいいかは議論の的。こんなことが起こる原因は、大きなセンサーがより広い面積を捉えるせいだ。言葉で言っても分かりにくいので、フルサイズ(でかい)とAPS-Cサイズ(やや小さい)を例に、下に図解。
つまり、光学的にはAPS-Cサイズ(センサー小さい)の写真は、フルサイズ(センサー大きい)の写真をトリミング拡大したにすぎない。じゃあフルサイズで撮っといて後加工したらいいんかっつぅと、そうでもないってのが今日のお話。
トリミング拡大すると画素数が落ちるんですな、当然ながら。ただその落ち方が、想像するよりだいぶキツイ。我が家にある、APS-CサイズのCanon EOS kiss X4と、フルサイズのCanon EOS 6Dを例にとってみますと。
kiss X4(APS-Cサイズ)のスペックは
センサーサイズ: 22.3×14.9=332.3mm2
画素数: 5,184×3,456=17,915,904 (約1800万画素)
対する6D(フルサイズ)のスペックは
センサーサイズ: 35.8×23.9=855.6mm2
画素数: 5,472×3,648=19,961,856 (約2000万画素)
6D(フルサイズ)の方が元々の画素数は大きいんだけど、X4(APS-C)並みの画角になるようトリミングすると、残る画素数は、
19,961,856×(332.3/855.6)=7,752,653
と、たった800万弱になってしまう。X4(APS-C)の半分以下だ。細かい機能で6D(フルサイズ)が優れてるにしろこれだけ画素数が違うのは決定的なので、大きく撮りたい用途なら最初からX4(APS-C)を使った方がいい。6D(フルサイズ)の方が大幅に高価なんで悔しいが、これが現実。あと、X4の方がちっさくて軽いし。
あぁ、この違いを吹っ飛ばせるくらいの大砲レンズを買うなら、話は別ですよ。画質面ではそればベストだ、重いし何よりお高いけど。それができる人はそうして下さい。