tilt log

本と、その他諸々のこと。理系的なこと。

剣道における手の内について。或いは茶巾絞りの正体。

剣道の手の内について訥々と思考していたところ、シンプルかつ論理的な理解にたどり着いた。せっかくなので記録しておきたい。

最初のきっかけはホーリーランドという漫画だった。ご存知だろうか、、、まぁ知らなくても構わない。柔道、空手などなど各種の格闘技経験者がケンカで戦う内容で、それぞれ特有の技術について、理屈っぽい解説が入るのが見どころだった。この中で剣道も登場して、剣道未経験者の筆者さんなりに、剣道の手の使い方が素人とは異なる、という考察をしていた。この内容、剣道経験者にはどう感じられるだろう。

 

f:id:tiltowait9:20180907235646j:plain

ホーリーランド 7 (ジェッツコミックス)
 

さてさて。左右の手の間に回転中心を置いて手の位置関係で振るので可動域や速さがスゴイ、という論旨だが。ちょっと違うと感じた剣道経験者の方は多いのではないだろーか。いや実際こんな事しないし…。私も最初はそう思った。でも本当に違うだろうか?

(これをテコと呼ぶか?について、物理屋的な疑問はある。いやそれよりも、直前のコマで面フェイントからの胴を「面抜き胴」と呼んでいるのが一番気になる。)

 

小さな振りでキレのある打突のできる人をよく観察してみるとわかるが、打突の瞬間左手を引いているのだ。左右の手の間に回転を作っている。というか思い直せば、自分も知らんうちにやっていた。そのように教えられた人はほぼいないだろうが、長くやってる人の多くが無意識のうちに、この手の使い方にたどり着いている(特に上手な女性剣士に顕著だと思う。腕力に頼れない分、男性より合理的な動作に到達しやすいのやも)。
試合用の小さな振りではメインエンジンだし、素振りの大きな振りでも肩・肘の動作に加えて剣を加速させる強力なブースターになっている。森恒二やるじゃん!

だがここで思考をやめては理解が浅い。回転で加速する手段はもうひとつある。それが手の内だ。

掌の中に回転中心を見て、小指で引きつつ親指の付け根で押す。手の内側だけでも、回転を増す力を加えることができる。f:id:tiltowait9:20180911000723j:plain

 振り上げた時、小指の第三関節は開いている。親指付け根の押し込みに合わせて、開いた小指をぐぃと握り込む。手首で振っているのでないことは強調したい。指の一本一本を柔軟に開閉し、掌の中で回転させている。

もちろん、右手でも同じ。 

f:id:tiltowait9:20180911000748j:plain

「竹刀は小指で振る」と教えられる理由がここにある。小指が回転力の源だ。対して回転力に寄与できない人差し指は添えるだけ…むしろ振り上げ時に握ったままでいると、剣の動きが手首の可動域に縛られる。邪魔なのでもう握ってもいない。

実際には、「左右の手の位置関係」「左の手の内」「右の手の内」、三つの回転の力を同時にかける。体得すれば下のような肩も肘も使わない振りだけで、風切り音が鳴る程に速く振れる。f:id:tiltowait9:20180911001146j:plain

「両手の位置関係で振る」の観点があるので左右は対称ではなく、左手は小指側で引く力、右手は親指の付け根で押し込む力、が相対的に重要にになる(小手を着けた状態ではここまで精妙な指使いができないので、特にそう)。振り上げたときに木刀から浮く指が、左手は人差し指1本なのに対して、右手は加えて中指まで浮いているのは、その影響。

ところでこの「左右同時に小指を締めつつ親指の付け根で押す」という動作、剣道経験者諸氏なら今さら言われなくても、もう教えられているんじゃないだろうか。そう、茶巾絞りである。打突の瞬間に両手を絞り込むとキレが増すという、誰もが教えられたであろう言い伝え。その効果を実感できず、多くに黙殺されているであろう基本のキだが、その裏にはこういう理屈が潜んでいたのであった。原理まで説明できる人は少ないだろうが、やはり基本として伝えられていることは、正しい。

2018年夏に出会った知らない昆虫

休みは子供と遊ぶ以外の選択肢はなく、まだ子供が虫取りに行く歳でもなく、ひとりで虫撮影にも行けない日々。それでも知らない虫にはたまに出会うし、そんなときは人目も気にせずスマホで撮影するようにしている。イマドキはスマホのカメラもなかなか優秀で、後で同定できる程度の写真は撮れる。いい時代だ。自慢するほどの写真でもないものの、せっかく同定した名前の記録としてブログ化しておく。普段の生活でもこのくらいの虫には出会っているという自戒も込めて。

 

コフキゾウムシ。少し藪に入ったところ。スマホで撮るには小さすぎる。

f:id:tiltowait9:20180818223143j:plain

 

オオアオゾウムシ。同じく少し藪の中。

f:id:tiltowait9:20180818223203j:plain

 

オジロアシナガゾウムシ、別名パンダゾウムシ。職場にて。圧倒的に別名で呼びたい、本名は特徴の本質を捉えてなさすぎだろう。

f:id:tiltowait9:20180818223251j:plain

 

ベニカミキリ。公園にて。知らない子たちがクモだと騒いでいた。どこを見ているガキども。

f:id:tiltowait9:20180818223223j:plain

 

ヨツスジハナカミキリ。自宅前にて。直感的にトラカミキリと呼びたいが、それはまた別にいるよう。

f:id:tiltowait9:20180622132352j:plain

 

ゴマフカミキリ。自宅前にて。ちょっと美しさに欠ける。

f:id:tiltowait9:20180917121939j:plain

 

オオコフキコガネ。色合いがあまりに地味で、ふつう出会っても名前を知りたいとは思うまい。

f:id:tiltowait9:20180624152422j:plain

 

サクラコガネ。職場にて。ふだんならカナブン系ですませるところを、がんばってみた。

f:id:tiltowait9:20180818230019j:plain

 

このあたりは同定が難しいが、スズバチかな。交尾中のレアな場面、逃げるより交尾を優先していたようで撮りやすくてありがたかった。

f:id:tiltowait9:20180809182136j:plain

 

ナミルリモンハナバチ。神戸の実家にて。被写体の美しさのおかげだが、スマホにしてはなかなかの写真ではなかろーかと自画自賛

f:id:tiltowait9:20180818223430j:plain

折り紙4:秀麗な折り紙

 折り紙本の紹介を引き続き。

最近になって、わりと面倒な類の折り紙本が国内でもちらほら出版されるようになってきていて、そのなかでもわりとポピュラーなのが山口真氏編の「端正な折り紙」ですが、ここでご紹介するのはその続刊「秀麗な折り紙」。

秀麗な折り紙

秀麗な折り紙

 

「端正~」も「秀麗~」も1枚折りにはあまり拘らない方針のようで、大胆に2枚折りにして難易度を下げてる作品も多い。そこは好みの分かれるところで、悪いとまで言えないものの、折る気を削がれてるのが率直な感想。なお、表紙にデンと載ってるのは伝説の作品「ティラノサウルス全身骨格」、正方形折り紙を21枚を使う大作で、ここまで来るとユニット折り紙の亜種とでも考えたほうがいいかもしれない。逆に感心するし折ってみたい気もするけど、工程が長大すぎて折りきる覚悟がまだ足りてない。

文句を先にってしまったが兎に角折ってみたいと思ったものが数点あって購入したんだし、実際折ってみて見事だと思ったのでそこはご披露しておく。折ったのは全て不切正方形一枚折りだ。

 キングギドラ。凸の多いモチーフにこんなのもあったか!アツいお題である。持て余してた金色おりがみの用途に最適、と思ったが25cm角サイズの紙ではカオの表情付けまでするのはキビシかった。本の推奨どおり35cmサイズがほしいな。f:id:tiltowait9:20180501022907j:plain

 

シン・ゴジラ。尻尾を大きく作るところに設計者(神谷チャンピオン)の意思が伺われます。ギドラに対抗して銀紙で折ったら、メカゴジラ化した。f:id:tiltowait9:20180427003613j:plain

 

アノマロカリス節足動物感あふれる仕上がりに大満足。わたくしアノマロカリスには目がないのである。写真には見えてないが、裏ではあの個性的な口もちゃんと表現されている。この作品が載っていたことがこの本を買ったと言っても過言ではない。だれかオパビニアやハルキゲニアも作ってくれんかな。f:id:tiltowait9:20180423000315j:plain

 

アーミーナイフ、前川淳氏の作。なんちゅうモチーフですか、前川先生。14等分した格子状の折り目を畳み込んゆく幾何学感の強い手順で、ナニゲに難しかった。それと僕もビクトリノックスが欲しくなった。f:id:tiltowait9:20180504184529j:plain

ティラノサウルス全身骨格は…いつか折ってブログに載せてやるんだ…足りないのは技術じゃなくて熱量なんだ…

 

折り紙3 : Origami incects

前川氏以降(正しくは吉澤氏以降でしょうか)折り紙というのは凄まじく進歩したけれど、ガチの折り紙師はもうあっちの世界に旅立ってしまっていて、私のような折り紙好きの一般人+α 程度の人間が楽しめる、「悪魔」と同等~それ以上くらいの折りごたえの折り紙本って、今でもそう多くなかったりする。おかげで洋書まで探すことになる。 

Origami Insects (Dover Origami Papercraft)

Origami Insects (Dover Origami Papercraft)

 

 Eテレの番組「スーパープレゼンテーション」にも出たラングさん(Robert J.Lang)の著作。今どきは折り紙も日本人の専売特許ではないのだ。洋書といっても図はわりかし丁寧なので言語の問題は心配しなくてもいい、悪魔が難なく折れるくらいに慣れていれば、読解はできる。…が、悪魔が可愛く見えるくらい過酷である。奇を衒ったフォルムでもないのに、なんだこのキツさは。リアリティのある頭身にするのは、こんなに酷なのか。さんざん苦労した工程を「裏も同様」とあっさり指示されて度々心が折れる。なにせ昆虫だから、左右対称なのは当然だが…

以下、苦労して仕上げた作品たち。

Praying mantis、カマキリ。本書を買って最初に挑戦したのがこれ。あまりに沈め折りを連呼するので悲しくなった。どうにか最後まで漕ぎ着けたものの、カマの表情付けのとか超適当だし、なにかと残念な仕上がり。今のところ折り直す気力が沸かない。f:id:tiltowait9:20180319004705j:plain

 

Hercules beetle、ヘラクレスオオカブト。この本の中ではまだ簡単なほう。カマキリの後にチャレンジして、どうにか仕上がったことでちょっと自信が持てた。脚の細さに昆虫感が満ちている。f:id:tiltowait9:20180306012306j:plain

 

Dragonfly、トンボ。脚が厚ぼったくなりすぎでもう表情付けできてない。f:id:tiltowait9:20180322002715j:plain

 

Cicada、セミ。なんとつぶらな瞳。顔の先端や目を破らず折りきるのは至難。写真はなんとか破らずに仕上がっているけど、これはたぶん3匹目だと思うから…f:id:tiltowait9:20180406172217j:plain

 

Paper wasp。いわゆるハチノスを作る蜂をこう呼ぶらしい。あれ植物の繊維を刻んで作ってるから、確かに紙みたいなものだね。紙で折られるべき名前をしている、とのこと。なお翅と触覚はインサイドアウトしてるんだけど、両面同色の紙を使っているので伝わらない。f:id:tiltowait9:20180327001153j:plain

 

Stag beetle、クワガタムシ。大アゴに枝分かれを作るのがニクい。欲を言えばもう少しアゴが誇張されたフォルムの方がかっこいいんだけど。f:id:tiltowait9:20180415232518j:plain

 

Scorpion、サソリ。本書のトリを飾る作品。ハサミ2本+脚8本+尻尾1本と、とりあえず凸部を増やしてやろうという目論見あらわ。ハサミと尻尾を大きく取るために強引な設計が敢行されている。f:id:tiltowait9:20180418004821j:plain

 

などなど。最初こそ「なんじゃこら、やってられるか!」と憤慨したものの、やってれば不思議と慣れるもので、最終的にはどれも1回目で折りきれるくらいに上達した。難しいからこその満足感というのは間違いなくあって、今はもう簡単な折り紙では満足できなくなっちゃったかも。シンプルな造形に留める魅力も理解できるものの、技術の高度化というのもまた、退けがたい魅力なのだなぁ。

ちなみに使用した紙は全てこちら。

エヒメ紙工 工作用紙 両面薄葉紙 八ツ切 赤 100枚入 ONCA-05
 

「薄葉紙」ってのは靴を買ったときにクッションで入ってるような極薄の紙のこと。こちらは薄葉紙にしては張りがあって、丈夫さと薄さの兼ね合いで複雑折り紙には丁度よい。正方形ではないので、折り紙化するためにカッターと定規で正方形に切り出しているが、丁寧にやれば寸法精度は十分確保できる。

 

 

tiltowait9.hatenablog.com

tiltowait9.hatenablog.com

 

折り紙2 : トップおりがみ

先の記事でご紹介した「ビバ!折り紙」は、前川淳氏の理論と作品を笠原邦彦氏が本にまとめたもの。 

tiltowait9.hatenablog.com

 

これにはいくつか続刊があって、そこでは前川氏だけでなくいろいろな作家の作品が、編者の笠原氏の感性によって紹介されている。まぁ、全部廃刊なのだが。今回はシリーズ2作目「トップおりがみ」の話。 これも思い出の一冊。

トップおりがみ (ビバ!おりがみシリーズ (2))

トップおりがみ (ビバ!おりがみシリーズ (2))

 

前著で複雑化の道を開いたのだからその道を邁進するかとおもいきやさにあらず、ユニット折り紙や、多面体作図、表裏一体折りなどなど、トリッキーなアイデアの紹介に紙面が多く割かれている。ユニット折り紙など、今では布施知子さんあたりがかなり複雑なことをやっておられるが、その可能性を提示したのはこの本あたりが端緒のよう。

 ユニット折り紙の単純な例、そのべユニット6枚(3色)からなる立方体。f:id:tiltowait9:20180115225659j:plain

 
同じくそのべユニット6枚の立方体だけど、紙の裏を見せることで2色にしている。f:id:tiltowait9:20180116145702j:plain


そのべユニット12枚からなるくす玉。ネット徘徊で見つけた、この本には載ってなかったオシャレそのべユニットを使用。f:id:tiltowait9:20180116144919j:plain

こんなパターンもある。さっきのくす玉を、凸を凹みに転じて組んだ場合。f:id:tiltowait9:20180116234800j:plain骨組みみたいになって随分と印象が変わり、これまたおもしろい。

 

少々幾何学な話になるが、このユニットくす玉の巨大化には際限がない。ユニット3枚が絡まる凸形状の底面は正三角形をなすので、ここに注目すれば、まず正三角形の面からなる多面体は構成できる。さらにこの三角形を立体的に組み合わせる2次ユニットを考えれば、2次ユニットの底面は正方形・正五角形・正六角形にすることもできる。こうなれば考えうる多面体はだいたい構成できることになるのであった。上の写真にあるのは正三角形の凸が8点で、正四面体と理解できる。
(この視点では、先に登場した立方体は正三角形4面に囲まれた正四面体である。ややこいね)

そして、軍拡競争よろしく肥大化するくす玉。f:id:tiltowait9:20180119114648j:plain上段右から順に、
 そのべユニット30枚からなる正20面体。(凸1つからなる正三角形が20面)
 そのべユニット36枚からなる正6面体。(凸4つからなる正方形が6面)
 そのべユニット90枚からなる正12面体。(凸5つからなる正五角形が12面)
そのべユニットを量産する工程は一種の精神修養だ。本の中では理論値として900枚からなる多面体も紹介されているが、これはさすがにどうかしてる。美しさとしては、右上の「30枚正20面体」がピークじゃなかろーか。

 ユニット折り紙はこのへんで置いといて…
それ以外にも志向を凝らした作品が並ぶ。例えば川崎敏和氏によるバラ、その道では「カワサキローズ」と有名なやつだ。f:id:tiltowait9:20180131013941j:plain複雑系折り紙とは頭の使い方が違う、立体的に曲線的に仕上げる折り紙。美しい。

こんなのも。同じく川崎敏和氏の巻き貝。f:id:tiltowait9:20180325001603j:plainネジネジと折り上げる工程が楽しい。川崎博士のアイデアは一味違う。


もちろん複雑系も紹介されている。例えば、ジョン・モントロール氏の作による「オサムシ」。f:id:tiltowait9:20180202065806j:plain昆虫戦争のはしりの時代だろうか。脚6本に加え触覚2本と翅2枚が折り出された、典型的な昆虫折り紙だ。

オサムシの折図の後には、こんなページがあった。

f:id:tiltowait9:20180309011745j:plain「応用は楽でしょう。」じゃねぇ。簡単に言いつつクワガタに折り変えた作例が写真だけで紹介されてて、つい同じものを折りたくなったが、実は背中のヒダを沈め折りするなどなどしていて、再現は簡単じゃなかった。


 本書のオオトリ、ステゴサウルス。これもジョン・モントロール氏の作。f:id:tiltowait9:20180120114916j:plain背中のヒダがたくさん、左右ズレて配置されるよう折り出す工程は実に技巧的で、よくこんなこと思いつくなぁと感心する。短足で可愛らしいし、この人の作品は複雑ながらも、古典的な折り紙のデフォルメ感を残しているのが好き。

折り紙1 : ビバ!おりがみ

 その昔、「ビバ!おりがみ」という折り紙本の名著があった。

ビバ!おりがみ

ビバ!おりがみ

 

 「折り紙を設計する」という当時の一般人には驚愕の概念を理詰めで解説していて、その成果としての作例もたくさん載っている。表紙にあるのがその中でも傑作とされる「悪魔」、ツルやカブトで楽しんでいた人間には理解不能な、複雑怪奇な造形を実現しておられる。

小学生時代に図書館でこの本を見つけて感動して、悪魔など手順をそらで覚えるほど繰り返し折ったもの。後年になって改めて購入しようと探したところ、廃刊で入手困難とのことで大層くやしく思ったのでありました。いま古本で入手するなら2万円が相場、暴利だ(買ったけどね!!)。で、悪魔の折り図が埋もれるのは忍びないと思われたのか、改めて上梓されたのがこちら、「本格折り紙」 

本格折り紙―入門から上級まで

本格折り紙―入門から上級まで

 

 設計理論の特に理系的な側面は端折られているのが個人的には残念だが。改めて練り直された幾何学的な説明は十分読む価値あり。また掲載作品に関しては「ビバ!~」からさらに洗練されている。

以下、実際に私が折ってみたもの。

まず、「ビバ!~」にのみ掲載の変形折り鶴。羽の角度がねじれている。(写真ではちょっと分かりにくいが・・・)f:id:tiltowait9:20180324162451j:plain

さらに、変形かざぐるま。中央にオシャレな模様が入る。f:id:tiltowait9:20180324161717j:plain「ビバ!~」では、まず折り紙をたためる条件を幾何学的に再解釈して、伝承折り紙の変形を試みている。折り紙が進化してゆく過程を追ってるみたいでワクワクするんだけど、ココが「本格~」でははしょられている。

飾り兜、これは両方に掲載。こどもの日が盛り上がる逸品、スーパーかっこいい。伝承の兜しか知らなかった時代にこれは衝撃だった。f:id:tiltowait9:20180424030539j:plain

 

で、件の「悪魔」。折り紙幾何学はこんなところまで行き着くのだ。f:id:tiltowait9:20180207004437j:plain何度折っても見事な造形だなぁ。エライのは折った私でなく設計した前川氏。「ビバ!~」と「本格~」の両方に載ってるけど折り手順が違う。一度作った形を開いちゃって、残った折り線から別の形に織り上げる「ビバ!」の手順はアバンギャルドで楽しい。一方、開いたまま折り線をつけてゆく「本格」は、つまらないけど確かにこのほうがキレイに折れる。

 悪魔の前段としての「鬼」、「ビバ!」のみに掲載。f:id:tiltowait9:20180130000235j:plain羽の折り出しがない分、悪魔よりは簡単だ。先日NHKの番組「オリガミの魔女と博士の不思議な時間」で紹介されていて、番組では本と違ってツノをインサイドアウトで白く表現していたので、それに倣ってみた。五本指を折り出す工程は展開図のみで示されているので、解釈にちょいと慣れが必要。

 飛ぶカブトムシ、折図は「本格~」より。「ビバ!~」以降の作品。f:id:tiltowait9:20180305200604j:plainかつては折り紙での6本脚表現は難題だったが、設計理論でそれが当たり前にできるようになって、エスカレートした結果さらにツノが2本と翅が4枚折り出されるに至った。しかも後翅はインサイドアウト

前川氏の折り紙は素朴な遊戯としての側面を大事にしていて、紙が破れるような無理な工程がないことや、紙の厚みや弾性を考慮してもちゃんとまとまること、といった自主規制がかかっている。そんな縛りの中でもこの形ができるんだから、素晴らしいよね。

クジャク、折図は「本格~」より。f:id:tiltowait9:20180129172302j:plain「ビバ!」にもクジャクは載ってるけど、1:2長方形からの作例だったし、正方形から折り出す後発のこちらのほうがなるほど洗練されている。羽の表現は地図や人工衛星に使われることで有名な「ミウラ折り」、コレを折るのは超めんどくさい。

 ティラノサウルス、折図は「本格~」。f:id:tiltowait9:20180119175152j:plain「ビバ!」にも同じお題の作品が掲載されているものの、そちらはフォルムが現実と離れすぎているので前川氏自ら出来が悪いと言っておられる。高度化すれば写実性に寄っていくのが当然だが、折り紙は元々大まかな形をなにかに見立てる遊戯であるわけで、リアリティを持たせつつもデフォルメ感を損なわないバランスを大事にしているとのこと。この仕上がりはなるほど納得。

読書録21 神道と古代日本の勉強本いろいろ

 古代日本は文字がなかったせいで謎だらけ。断片的な中国の記録くらいしか確実な情報がない中、古事記日本書紀などなど神話の中にもいくばくの現実が反映されているだろうと研究されているものの、そんな曖昧な論拠では推論を事実と断定するのは難しい。まぁ、わからないからこそ想像するのが面白いというものでして、古代に思いを馳せるのはロマンなのだ。
旅行で宇佐神宮に行った余波で気分が盛り上がって、関連図書を一気読みしてみたので記録する。願わくは、一つだけ読んでそれが真相に違いないなどと感化されませんように・・・

 

逆説の日本史〈1〉古代黎明編―封印された「倭」の謎 (小学館文庫)

 

●論点ピックアップ

・邪馬台は中国語ならヤマトと読める。大和朝廷の源流に違いない!

卑弥呼は日巫女。皆既日食で民衆の信用を失って殺され、別の巫女トヨ(台与)にすげ替えられた。天の岩戸神話はこの話。

・国譲りは大和朝廷の征服を、「話し合いで譲ってもらった」ことにした話。オオクニヌシは無残に殺されたので、祟りを恐れて立派な出雲大社に祀られた。出雲大社内のオオクニヌシが拝殿の方を向いてなかったり、拝礼の所作が「二礼四拍手一礼」なのも、崇拝より封印が目的の社だから(四=死の類推)。

宇佐神宮も二礼四拍手一礼。実は二の殿の比売大神というのは卑弥呼(=アマテラス)で、これも殺しちゃったから祟りを恐れて、立派な社に祀っているのだァーッ!応神天皇神功皇后の強力コンビで封印しているに違いない!

 

●感想

・日本古代史関連では初めて読んだ本。断片的な情報をうまくつなげてストーリーを仕上げるのは、推理小説のような面白さがある。ド素人の私に興味を持たせてくれたキッカケではあるが、多少知識のついたあとで読み返すと、素人が好き勝手ブチ上げてるだけなのがわかって恥ずかしい。

・素人でも指摘できる齟齬がある。例えば宇佐神宮のくだり、応神天皇が八幡さんと習合されたのは後世の話なので、この論はおかしい。また、序盤では卑弥呼は民衆に殺されたって言ってたのに、途中からオオクニヌシ同様に征服で殺されたって話になってるし。

・ちゃんと言えばアラはいくらでもある。読みやすく印象的で、人に興味をもたせるという側面ですごく価値があるのは認めるものの、これだけ読んでへーと言って終わってしまう人も多いだろうし、価値の総計はほんとにプラスになってるのかなぁ、心配だ。

 

  ●論点ピックアップ

・アマテラスといえば皇祖神であり神道最高神。でも天皇家が伊勢に参拝するようになったのは明治以降のことだ。古くは宮内に祀られてたのが災いなすので移されて、巡り巡って伊勢に行った。元々は武神でもあり、恐れられ遠ざけられたのだろう。ちなみに本地垂迹説では=大日菩薩さま。

八幡神は元々渡来人の神で、だから総本山は北九州の宇佐にある。後に応神天皇と習合して第二の皇祖神になり、京都石清水に勧進されると怖いアマテラスに代わって天皇家御用達の存在になった。八幡大菩薩なんつって仏教の神様にもなったし、ポピュラー度は最強。

・これらに次いで重視されたのが春日大社で、これは最強の貴族・藤原氏氏神さま。当時の権力構造が反映されている。

 ・国津神最高神オオクニヌシは別名がたくさんあるが、それっていろんな神話の集合体なのかも。また出雲大社の祭祀を担う出雲国造は、かつての豪族でありアマテラス直系の子孫ともされる生き神様でもある。これがオオクニヌシを祀っているのは変であり、謎。国造ご本人が祭祀の対象っぽいが??

 ・菅原道真公は祟りを恐れて祀られたのに、天神(=雷神)と習合して人気が出た。徳川家康公あたりから祟りと無関係に偉人を祀るようになったけど、こういうのは参る人も墓参り程度にしか思ってないので、他の神様とは趣が違う。ガチの神様は畏れを伴うのだ。

 

●感想

 知名度の面で主だった神道の神様&神社を紹介する本で、平安以降の日本人が神様とどう付き合ってきたか、という話がメイン。著者の個人的見解は控えめに、主だった神様の話題をさらってくれてるので、神道に関する入門には丁度よかった。昔の神仏習合ってすごく浸透してたらしくて、これは現代人にはない感覚なので新鮮。逆にいえば政府主導の神仏分離が見事に機能したって意味でもあって、それはまた凄いなって別のところで感心してしまったり。

 

大和朝廷 (講談社学術文庫)

大和朝廷 (講談社学術文庫)

 

 ●論点ピックアップ

・ヤマトの名の勃りとは。ヤマトという地名はたくさんあるが、かつて「ト」の発音には2種類あって、ヤマトのトと合致するのは畿内。九州付近は別のトなので畿内起源説が有力。

 ・三世記は魏志倭人伝邪馬台国の記録がある。その位置も書いてるが、素直に読むと九州通り越して南の海にたどり着く。読み方か書き方かが間違ってるぽくて、いろんな解釈で九州説とか畿内説とかが出たけど、この記録から断定するのは無理。

・四世紀は文字記録がない謎の世紀だが、畿内から古墳文化の発展が見られ、王朝成立の気配。記紀でいえば崇神天皇ヤマトタケルのころ。霊山・三輪山の祭祀権を獲得したこと(=オオタタネコ)によって三輪王権と呼ぶ。昔は祭祀権=政治だった。ちなみに三輪山周辺は山の合間で、語源としてヤマト感がある。崇神朝を北方系の騎馬民族による征服王朝とする説があり、示唆に富むが証拠不十分。

・五世紀、応神~の時代。応神前の系譜には政治的潤色の感が激しくて(神功皇后ヤマトタケル)、諡号の系列にも~イリヒコ→~タラシヒコと隔離があり、系譜の断続が懸念される。中心地も河内に移ってるし、別系統の王朝と思われる。よって以降を河内王朝と区別して呼ぶ。

 

●感想

上2つで紹介したのよりだいぶ学問として本格的に、古代日本史を考察するための主だった知識と論点をさらってくれる本。名のある学者さんが平易な文章で書いてくれたもので、私のイチオシです。拠り所になる文献の信頼性についても逐次議論してくれて実に理性的、これぞ見習うべき学問の姿勢です。あやしげな自説を他人に納得させるための本を書くような輩には、この本のシミでも煎じて呑ませてやりたい。それでも、この著者さんが個人的に支持する論というのはあって、それを事実と共通認識にすべきでもないので、注意は必要。考古学では客観性を担保するのが難しいのだ。(ちなみに著者さんの立場は、邪馬台国大和朝廷の前身で、その勃りは畿内であり、崇神・応神・継体の三王朝が交代したとする説をとっています)

 

日本の神々 (講談社学術文庫)

日本の神々 (講談社学術文庫)

 

  ●論点ピックアップ

イザナギイザナミは、原初は海の神だった。一方で記紀の神話はイザナギを天空、イザナミを大地の神として、天地の結婚による世界創造を意味しているようでもある。いずれが先行したか不明だが、後世では両者の要素は並存している。

・この二柱は元々淡路島周辺の海洋民の祀るローカルな神だったが、後にアマテラスの親神&世界の創造神にまで格上げされた。伝承の舞台が出雲やら日向やら広くなったのは後付け。

スサノオは、高天原にいるうちは聖地を冒涜する巨魔の役割だが、追放されてからは普通の人間的英雄に豹変する。元々別の話をツギハギして、天津神系と国津神系の橋渡しさせてるのかも。出生譚からして太陽と月の兄弟として出てくるのは不自然で、元々はいなかったのに割り込ませた感がある。というか、失敗作のヒルコの話がスサノオとすり替わっていると読むと、書紀の記載は非常にシンプルになる。

スサノオとアマテラスのウケヒで生まれた子は、天皇家の祖先アメノオシホミミの他にもたくさんいるが、どれも出雲やら宗像やら各地の有力豪族の祖先。みんな同じ系譜ってことにしよう、という政治的思惑が明確。

・皇祖神は実は元々タカミムスビだったが、7世紀頃に伊勢あたりで信仰されているアマテラスが割り込んできた。子でなく孫が降臨するのも、2つの降臨神話を無理につないだせいでは。

・天岩戸は冬至に弱った太陽が生まれ変わる儀式・鎮魂祭の説話化。続けて催される大嘗祭は、復活した太陽が降臨する天孫降臨の説話化。

記紀とは、既に存在していた多数の神話を、政治的思惑をもって高度なコントロールのもとに編纂したもの。この時既に、原始的な口伝の神話とは性質が異なるものに変貌している。

 

●感想

プロがプロ向けに書いた本で、私のごとき素人が読み切るには少々ホネだった。統一見解と個人的見解の区別はわかるように書いてくれてるが、参照する文献は国内外に渡りあまりに広範で、真偽を疑いながら読み進めるのは無理。膨大な情報の前にただうなずくのみ。

神話の原像に迫ろうというテーマは実にスリリングで、細部を読み飛ばしてでもその論旨を追う価値がある。もっと知識がついたら、もう一度読み返そうと思う。

 

アマテラスの誕生 (講談社学術文庫)

アマテラスの誕生 (講談社学術文庫)

 

   ●論点ピックアップ

・昔は神社に社はなかった。神様は天にいて、社に常駐するとされてなかったので。神様が地上に天降る手順もきまっていて、それは次の通り。この認識が、当時の文化風習を理解する上でとても重要。
 1.神様は船や岩に乗って山に降りてくる
 2.それから人が用意していた木(みあれ木)に憑依する
 3.人が川べりまで木を持っていくと、神様が川にもぐる
 4.巫女(棚機つ女)が神様をすくい上げる

・原始的な太陽信仰は各地にあった。「天照」の字でアマテルとよばれる男性神もちょいちょいいた。紀伊の太陽神信仰がある時期に官製の女性神アマテラスにすり替えられ、各地の信仰もアマテラスに統一されていった。

・時を追うと、巫女はよく神様と混同される。アマテラスが女性なのは、元々天皇家の信仰してた高木神の巫女だったから。よく2人セットで登場するのもそのせい。

・アマテラスが成立したのは壬申の乱の後。天武・持統の治世が胎動の時代で、持統天皇が退位した後が誕生の瞬間。神話の天孫降臨で、子でなく孫が天降るのは、持統天皇が孫(文武天皇)に王位を譲った経緯が反映されている。

 

●感想

自説を力説するタイプの本なので、批判的な視点がないのは注意ですが。古事記成立前の信仰形態って現代とは全然違っていて、そこを推測しつつアマテラス成立の謎を追う過程はなかなかに刺激的だった。アマテラスが作為的に作られたって説がそもそもホォーってカンジ。
特に最終章で描かれる、アマテラスの黒幕:持統天皇の心情なんかは、ちょっと学問じゃないんだけど愛情たっぷりな筆致で、ステキでした。